FOCUS ON BRAVEKINGS

【FOCUS ON BRAVEKINGS #4】加藤芳規選手インタビュー

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ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

 

 

苦しい時ほど輝く、GK加藤芳規選手が描く理想のセービング

 

9月21日、枇杷島スポーツセンターで行われた2024-25 リーグH レギュラーシーズン第3節のトヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀戦。初先発したゴールキーパーの加藤芳規選手は、長袖のユニフォームの袖をまくって自らにスイッチを入れると、パンパンと手をたたいてチームメイトを鼓舞した。

 

加藤選手は最初のシュートストップに成功すると、ガッツポーズをしながら「よっしゃー」と吠えた。その後もシュートを止めるたびに両手を突き上げ、観客席に向かって何度も雄叫びを上げる。この日の加藤選手は29本中15本という驚異の51.7%の阻止率を記録し、チームの勝利に貢献した。

 

「最初に相手のエースのシュートを止めて、それで『今日はいける!』みたいな気持ちができました。あの試合はディフェンスとの連携も良く、相手が自分の思ったところにシュートを打ってきて、何もかもうまくいった。ゾーンに入った感覚でしたね。レットル佐賀戦は毎回結構当たっているので、相手の方に苦手意識があるのかもしれません。相手の方が後手に回っている印象を受けました」と加藤選手は振り返る。

 

松村昌幸ゴールキーパーコーチは、先発起用に応えた加藤選手への賛辞を惜しまなかった。「レットル佐賀のシュートの傾向を見て、加藤の方が合いそうだなと思ってスタートに起用しました。彼もその意図をしっかりと理解してくれて、良いパフォーマンスをしてくれた。チームがそこから勢いに乗ることができました。あの試合はチームにとってもターニングポイントになったと感じています」。

 

 

チームに欠かせないエナジーチャージャー

 

ブレイヴキングス刈谷には、加藤選手に加えて、日本代表の岡本大亮選手、将来有望な平尾克己選手の3人のゴールキーパーが在籍している。試合に登録できるのは2人。選手のコンディションやチームの状況、対戦相手など様々な観点を考慮して起用していると松村コーチは話す。

 

「加藤にはチームにエネルギーをチャージする役割を期待しています。彼を起用するのは、流れが悪い時、ビハインドを背負っている時。岡本を先発で送り出して、劣勢になってきたら加藤でもう一回リチャージしようという意図ですね。また、連戦が続いて少しチームのエネルギーが下がっているような時には、彼のエネルギーが必要なのでスタートに起用したりします」

 

 

加藤選手もその期待を重々理解している。「途中から出場する時は流れが悪い時が多いので、まずは僕が止めないといけない。だから1本目がすごく大事で、どんな形でも絶対に止めて、声を出して、チームの士気を上げていくと決めています」。

 

そう説明する加藤選手の声は、とても小さい。松村コーチによると、「普段と試合中では全くの別人。会社にいる時は『あれ?いたんだ』っていうくらい静かなんですよ。でも試合ではいきなりスイッチが入る。そうした本番の強さは彼の「強み」なのだそう。加藤選手も「普段は静かですね。練習も淡々とやることにしているので、大きな声を出すのは試合だけ。たくさんのファンの方が応援してくださる中でコートに立つと自然とテンションが上がるんです」と苦笑する。

 

「チームの勝利に貢献することが一番のやりがいではありますが、個人的には目立ちたい! キーパーが当たらないと勝てないし、試合が締まらない。『影の立役者になる』というマインドでやっていますが、一方で『目立ってやる』という気持ちを持っていないと攻撃的なキーピングができないので、目立つことをモチベーションにしています」

 

 

「加藤のシャウト」は浦和学院高校時代に作り上げられた

 

ブレイヴキングス刈谷の“名物”であり、大きな武器でもある加藤選手のエネルギー溢れるプレースタイルが確立されたのは高校時代だという。

 

小学生の頃は野球チームに所属し、「将来の夢はプロ野球選手だった」という加藤選手だが、中学では「坊主が嫌だった」という理由でハンドボール部を選んだ。ゴールキーパーになったのは、「始めて1週間でフィールドプレーヤーに向いていないとわかったからです。ラインを踏んじゃうし、ジャンプシュートもできないし、顧問の先生と相談してゴールキーパーになりました」。

ゴールキーパーに転向した当初は「痛いし、怖いし。何が面白いんだろう」と思ったそうだが、「試合をして、シュートを止めて、自分が活躍して、チームが勝つ、それを繰り返しているうちにだんだん面白くなってきました」とゴールキーパーにやりがいを感じるようになった。

 

 

加藤選手が通った吉川市立中央中学校は過去に全国大会に出場したことはあったものの、入部当時の部員は同学年の8人のみ。加藤選手を含めて、中学からハンドボールを始めたメンバーばかりだった。それでも、国士舘大学の豊田賢治監督(元日本代表、元大崎電気オーソル)を育てた名将のもとで、土日は埼玉、栃木、群馬の高校と練習試合、試合のない時は9時から16時までノンストップで練習をする中で鍛え上げられ、急成長。3年生の時には春夏の全国中学校ハンドボール大会で2冠に輝き、加藤選手自身も夏の大会の大会優秀選手に選出されるまでになった。

 

中学卒業後は、日本代表選手を多く輩出している名門・浦和学院高校へ進学。厳しい競争の中で充実した練習を重ねた。

 

「高校2年生の時に、顧問の先生から『静かすぎる。自分からエネルギーを出せ』と言われて、どうしたらいいだろうと考えていました。ちょうどその頃、北京オリンピックアジア予選の再戦が日本で行われて、日本代表GKの四方篤さんがシュートを止めた時にガッツポーズをしてチームを鼓舞する姿を目にして、自分もやってみようかなと始めました」

 

自分を変えて、もっと成長したい。強い信念と努力が実り、加藤選手は各年代の日本代表にも選出されるなど頭角を表していく。

 

 

爆発力と安定感を兼ね備えたゴールキーパーへ

 

加藤選手は筑波大学を経て、2015年にブレイヴキングス刈谷に入団。ゴールキーパー陣の中では最年長になり、中堅と言われる年齢に差し掛かった今も、さらなるアップデートに挑んでいる。

 

松村コーチは、加藤選手の元来の魅力は「野生味」だと評する。「おそらく相手のシューターからすると、予想外の動きをしたりする。そこはセンスというか、教えられない部分。彼のそうした野生味に魅力を感じています」。

 

加藤選手も「1本止めると、野生の勘が働き出して、『こっちに打ってくるんだろうな』という読みが当たるんです。勘が当たっているのか、それとも打たせたい方向に誘導するように自分が先に位置取りをしているのかは、自分自身でもわかっていないんですけどね」と自身の「野生味」を武器だと認識しながらも、ゴールキーパーとして理想とするのは「安定感」だと強調する。

 

「これまでは流れを変えるための爆発的な働きを求められてきました。でもそれは、見方を変えると少しギャンブル的な側面もあったと思うんです。だから今は『安定したセービングがあった上での爆発力』を目指していますし、ここ数年はセオリー通りのゴールキーピングがでてきている手応えもあります」

 

安定したセービングのためには、「とにかく迷いをなくすことが重要だ」と加藤選手は続ける。「迷いがあると一瞬動きが遅れてしまう。『今、迷ったな』というのは自分でもわかるので、そこをなくしていきたい。試合の前に『どこに打たせたいか』とプランをしっかりと立てて、試合では練習通りに、自分を信じてプレーすることが必要だと考えています」。

 

エナジーと野生味溢れるプレーでチームが苦しい時にこそ真価を発揮する加藤選手。リーグ後半戦に向けて、彼の力が必要になる場面はより増えてくるだろう。

 

 

「僕のネームタオルを掲げてくださる方、メッセージをくださる方、最近はゴールキーパーのファンも増えてきていて、ゴールキーパーというポジションの魅力が伝わってきているのかなととても嬉しいです。もっとゴールキーパーの魅力を多くの人に伝えていきたいですし、そのためにも、これからもどんどん叫んで、目立って、リーグH 優勝のために自分の持ち味を最大限に活かしていきます」

 

加藤選手は静かに、しかし力強く語った。

 

 

取材・文/山田智子

2025/02/05

【FOCUS ON BRAVEKINGS #3】高智海吏選手インタビュー

いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございす。

ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

 

 

キレのあるカットイン、身体を張ったディフェンス。コート上で戦う高智海吏選手を見ていると、彼が40歳であることを忘れてしまう。ベテランの域に達してもなお、トップレベルのパフォーマンスを維持し、チームに貢献し続ける。その原動力とはーー。

 

苦しい時期を支えた、「ハンドボールは遊び」という原体験

 

―SNSでファンの方が「50歳までプレーしてほしい」と書いていましたが、高智選手なら可能なのではと思うような、年齢を感じさせないプレーに驚かされます。

 

高智:よく言われます(笑)。

 

―長くトップレベルのパフォーマンスを保ち続けられる理由は何でしょうか。

 

高智:ハンドボールを遊びで始めたというところが大きいかもしれませんね。

日本代表としてもプレーさせてもらいましたが、重圧を感じることもありましたし、スケジュールも過密になるので体力的にしんどい時もありました。そういう苦しい時には、始めたばかりの、上手くなりたくて努力していた頃の自分を思い出すんです。

「好きなことを続けて、それを仕事にさせてもらえて、しかも世界のトップレベルの選手たちと戦える。こんな幸せことはない」と思えば、自然と高いテンションを維持できる。そうやって何度も乗り越えてきました。

 

 

―ハンドボールは高校2年生から始められたんですよね。トップ選手の中では比較的遅いスタートですが、それまでは何かスポーツをされていたのですか。

 

高智:小学校3年生からずっとバスケットボールをしていました。でも高校2年生の時にバスケ部を続けるかどうか悩む時期があって。その時に同じ体育館で練習をしていたハンドボール部の田中宏明先生から「一度遊びでハンドボールをやってみないか」と声をかけられたんです。試しにハンドボールをやってみたら面白いし、子どもの頃はドッジボールが得意で肩が強かった。左利きで、身長も高かったので、「結構できるな」という実感があって、ハンドボール部に転部しました。

 

―ハンドボールのどんなところに面白さを感じたのでしょう?

 

高智:ハンドボールとバスケットボールは似た動きが多いのですが、バスケでは3歩以上歩くとトラベリングになるので、3歩まで歩けるハンドの方が1歩多く歩けます。

バスケでも1対1で抜くプレーが好きだったし、さらに1歩多く歩けるとプレーの自由度が上がります。逆に2歩目でシュートを打つとタイミングが狂うので、相手としてはやりにくかったみたいですね。チームもインターハイに出場するような県内では強豪だったので、全国レベルで戦えることも楽しかったです。

 

―高校卒業後は、強豪・大阪体育大学に進学します。

 

高智:ハンドボールは楽しかったんですけど、始めたのが遅く、高校の頃は運動能力だけでやっているところがあったので、上のカテゴリーで続けられるとは考えてもいませんでした。僕は子どもが好きなので、保育士になるために保育科のある短大への進学を検討していました。

でも、3年生の時に中国地方のナショナル・トレーニング・システム (NTS)※ に参加した時に、フィジカルテストでトップを取って。「誰だ、この選手は? ハンドを始めて1年も経っていないらしいぞ」と注目されて、全国のNTSにも呼んでいただきました。そこでもフィジカルテストで1位か2位に食い込んだんです。

それで後日、田中先生に教官室に呼ばれて、「大学でもハンド続けてみないか? 教える仕事に興味があるのであれば、体育大学で教員の免許を取ることもできるから」と勧められて、大学進学を決めました。

※ナショナル・トレーニング・システム (NTS)  :優秀なアスリートの発掘・育成・強化活動を実施すると共 に、指導の一貫性を図ることによる指導者の育成、さらには各地区の地域に新 しいハンドボール情報を伝達していくシステム

 

―大学の練習はいかがでしたか?

 

高智:厳しかったです! 伝統のある大学だったので、周りは小学校からハンドボールをやっているような有名選手ばかり。その中で、ハンドボールが身体に染みついていない僕は、全く通用しませんでした。それが悔しくて、悔しくて……。

 

―その壁をどのように乗り越えたのですか?

 

高智:他の選手の動きを見て、真似をする。それをとにかく反復しました。チーム練習の後、一人で体育館に残ってスキルを向上させるためにひたすら練習をしましたね。高校時代に自信を持っていた身体能力に関しても、上には上がたくさんいることもわかったので、筋トレや走り込みもしました。1年生の終わり頃から少しずつ試合に出られるようになって、3年生からは先発で出場するようになりました。

 

 

―実業団でもハンドボールを続けようと考えたのはいつ頃ですか。

 

高智:当初は教員を目指そうと考えていたので、教育実習にもいきましたし、「大学でやり切るぞ!」という気持ちでした。でも複数のチームからお声がけをいただいて、当時の監督の宍倉保雄先生とも相談してトヨタ車体ブレイヴキングスに入団することに決めました。「もっと上を、もっと先を目指して頑張れるんだ」と視野がパッと広がって、すごくモチベーションが上がった時期でしたね。

 

―ブレイヴキングスに加入して2年目で日本代表に選出されます。

 

高智:始めた時には全く想像していなかった世界ですね。初めての代表戦は、北京オリンピックの世界最終予選で。世界トップレベルの選手はプレーの一つひとつのクオリティ、パワー、高さ、全ての基準がずば抜けて高いなと感じました。でも、その中でも自分のフェイントや、得意としているカットインが通用すると感じることができましたし、そこに磨きをかけて可能性を伸ばしていきたいと意欲が湧きました。

 

―それから10年間にわたって日本代表として活躍されました。

 

高智:いろいろなヘッドコーチ(HC)のもとで貴重な経験をさせていただきました。2018年のジャカルタアジア大会で代表活動に一区切りをつけさせてもらいましたが、それまではタイトなスケジュールの中で、ハードに自分を追い込んできたので、ようやく肩の荷が下りたという感覚でしたね。

一方で、日本代表はモチベーションの一つになっていましたし、年齢的にも30代になっていたので、その後のキャリアをどうしていくのか考えるようになりました。今振り返ると、その頃は自分のパフォーマンスが少し落ちていたように感じます。

 

 

「若い選手には絶対に負けたくない!」 40歳でキャリアハイ更新中!!

 

―今シーズンは非常に高いパフォーマンスを維持しているように感じます。少し落ち込んだ時期から、どのように自分の気持ちを立て直したのでしょうか。

 

高智:昨シーズン、ラース・ウェルダーHCが就任して、起用法が変わったことが大きかったですね。僕は主にバックプレーヤーとしてプレーしてきたのですが、30代後半になってから数年かけてサイドプレーヤーに転向してきました。でも、ラースHCから「バックプレーヤーをやってほしい」と求められて、再び心に火がつきました。

バックプレーヤーはフィジカルコンタクトが激しいポジションなので、また身体を作り直しました。そうしたら、試合の出場時間も増えましたし、パフォーマンスも上がってきています。

 

 

―フィジカルテストの数字は、40歳のいまもチームトップレベルだそうですね。

 

高智:そうなんですよ。でも、努力をし続ければ、多分誰でもできるんですよ

 

―いやいやいやいや。誰にでもできることではないと思います。

 

高智:自分もそうだったんですけど、おそらく年齢を言い訳にして自分自身にブレーキをかけているところがあると思うんですね。1つずつ、1日ずつ、限界を超えていく努力を積み重ねることで維持できます。実際にここ数年間、毎日限界を超える努力を続けてきたことで、キャリアハイの数値を出すことができています。

 

―キャリアハイですか!?

 

高智:バイクを漕いで、6秒間でどれくらいのパワーを出せるかという瞬発的な動作を鍛えるトレーニングがあるんですけど、その数値で先週キャリアハイを出しました。僕はスクワットがあまり得意ではなかったんですけど、フォームを改善したりして努力を重ねることによって、いま一番重量が伸びていますね。

有望な後輩がどんどん入ってきた中でも、まだまだ負けたくないという気持ちが強いんです。僕が若手の立場だったら、「ベテラン選手を打ち負かして、早くポジションを奪ってやる」と考えるだろうし、それくらいの気持ちがなければ勝ち残ってはいけません。

練習していると、若手が挑んできているなと感じることがあって、それは嬉しいことでもある反面、僕としては絶対に負けたくない。フィジカルテストでトップクラスにいれば、客観的な数字としても負けていないことを示せますよね。若手の前に壁としてしっかりと立ちはだかって、切磋琢磨しながら互いにレベルアップできればと考えています。

 

 

―今のお話を聞いていると、ファンの方がおっしゃるように「50歳まで現役」もあながち不可能ではない気がしてきますね。

 

高智:さすがに50歳までは想像できませんが(笑)、チームの力になれる限りにおいては、できるだけ長くトップレベルでやりたいという気持ちはあります。この先の人生を胸を張って生きられるように、限界までハンドボールを続けたいです。

 

 

―日々の努力のほかに、長く競技を続ける秘訣はありますか?

 

高智:オフコートで、しっかりとリラックスすることでしょうか。僕はキャンプが趣味なのですが、むしろ身体がきつい時ほど行きますね。時間がなくても、朝3時に行ったりとか(笑)。「病は気から」という言葉があるように、キャンプに行って、気持ちをリフレッシュできると、次の週は不思議と身体が動くんですよ。DIYも好きなので、主に材料に木材を使うんですけど、木と向き合っていると心が落ち着くし、集中力が高まる。ある種の瞑想のような感じです。だから僕にとって趣味はハンドボールを続ける上で不可欠なものですね。

 

 

―2月からリーグHの後半戦がスタートします。初代王者になるために、どんなことが大事になっていくでしょうか。

 

高智:それぞれの選手が自分の武器をしっかりと認識して、それを試合でフルに発揮できるようにオーガナイズすることが大事になってくると思います。すごく難しいことですけど、それを全員ができれば、チームとして100%以上の実力が出せます。1月の日本選手権は決勝で敗れはしましたが、攻守においてそれを表現できた時間が多かったと感じています。

ファンの皆様の熱い応援もすごく力になっています。リーグHの優勝に向けて、これからも一緒に戦っていきたいです。僕も前半戦のパフォーマンスを継続できるように最大限の努力をしていきます。

 

取材・文/山田智子

2025/01/22

【FOCUS ON BRAVEKINGS #2】座談会 日本選手権の振り返り、悔しさをばねにリーグH後半戦へ

いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございす。

ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

 

 

12月に行われた日本選手権。9年振り3度目の優勝を目指して臨んだブレイヴキングス刈谷でしたが、またしても決勝で豊田合成ブルーファルコン名古屋に1点差で惜敗、準優勝に終わりました。座談会の第2部では、日本選手権の舞台裏や、この悔しさを糧にどのようにリーグH後半戦へ挑むかなどを、岡本大亮選手、髙野 颯太選手、櫻井睦哉選手、渡部仁選手に聞きました。

 

ディフェンスは後半戦に向けて大きな自信に

 

 

12月の日本選手権大会は、残念ながら準優勝という結果でした。

 

渡部:初戦の日本体育大学戦は39-26と点差は開きましたが、試合終盤は良くない時間帯がありました。ラースヘッドコーチ(HC)からもその点を指摘されたので、2試合目のゴールデンウルヴス福岡戦でしっかりと立て直し、3試合目は1週間前に行われたリーグ戦で引き分けたジークスター東京に接戦で勝つことができて、いい流れで決勝を迎えることができました。

 

髙野:(渡部)仁さんが言った通り、決勝までの流れがすごく良くて、決勝でも順調な入りができました。そのままの勢いでいけるかなと思っていたのですが、後半失速してしまいました。自分自身もレッドカードをもらって しまい、チームに迷惑をかけてしまいました。

 

櫻井:決勝の後半の立ち上がりに相手が修正してきたのですが、それに自分たちが対応できず。徐々に点差を詰められて、延長で負けてしまいました。パリオリンピックでも同じような逆転負け、1点差負けの試合を経験しましたが、あらためて後半の立ち上がりの大切さを痛感させられました。

 

 

岡本:ただ、大会全体を振り返ると、失点がかなり少なかった。そういう意味ではディフェンスが機能したという手応えを感じられた大会でした。僕たちゴールキーパーとしても取りやすいシュートが多かったですね。決勝では、後半は攻めあぐねて、逆速攻を食らって失点してしまったところがありましたが、それ以外のディフェンスは非常に良かったと思います。

 

 

渡部:決勝は26失点なので、ゴールキーパーを含めたディフェンスはすごく機能していましたね。一方で攻撃は25点と全然点が取れなかった。具体的に何分ごろというのは覚えていないのですが、後半急に攻撃がしづらくなった感じがありました。シュートを打ちに行ったというか、打たされているような感覚。そうして攻撃が手詰まりになったことがターニングポイントだったと思います。

 

―攻撃が機能しなくなった原因はどこにあったと思われますか。

 

渡部:相手のゴールキーパーが、中村匠選手から普段はあまり出ていない宮城風太選手に替わって、セーブ率が53.1%と驚異的な数字でシュートを止められたのが攻めあぐねた一因です。 宮城選手は素晴らしいパフォーマンスでしたが、それ以前に、確率の高いところでシュートを打てていない、相手のディフェンスを突破してシュートを打てていなかったというのも問題でした。僕がライトバック、櫻井がライトウィングという形で一緒に出ることが多いんですけど、サイドシュートを打つシチュエーションを作れなかったのが個人的な反省点です。

 

 

―攻撃の停滞をどのようにコート上で解決しようとしたのですか。

 

渡部:コート上はそれほどネガティブな雰囲気ではなく、準備してきた作戦があるので、それを実行しようとしていました。でも「あれをやってみよう」「次はこれをやってみよう」といろいろと試してみたのですが、ことごとくうまくいかない悪循環に陥っていました。それでもディフェンスとゴールキーパー 陣の踏ん張りで接戦に持ち込むことができました。

 

髙野:オフェンスがうまくいかない状況でディフェンスまで崩れたら完全に流れを持って行かれてしまうので、ぎりぎり耐えていたという感じです。

豊田合成のオフェンスは比較的狙いが分かりやすかったんですよね。シュート力のあるバラスケス選手が最終的に打つことが多い。相手の最大の強みを、前半から櫻井(睦哉)や山田信也さんが身体を張って止めてくれていて、かなりストレスを掛けられていました。おそらくバラスケス選手はやりにくかったと思うし、後半彼を下げたのはそういうことだと思います。

ただ今回の決勝に関しては、スピードのある日本人選手にかき回されて、そこを止められずにレッドカードをもらってしまいました。次に対戦する時には、その部分をしっかり対策すれば、もっと違う展開に持っていけるんじゃないかと感じています。

 

準決勝のジークスター東京戦は「チームとしてゾーンに入っていた」

 

―みなさんのお話を聞くと、昨シーズンの「1点差」よりも手応えを感じる「1点差」だったということですね。今大会のベストシーンを挙げるとしたら、どの場面が思い浮かびますか。

 

渡部:シーンではないのですが、準決勝の前半で(髙野)颯太が膝を怪我して、後半も出られないくらいの大きな怪我だったんですけど、翌日に決勝を控えた時間がない中で、出場できるようにケアしてくれたスタッフ、その状態でも試合に出場して活躍した颯太の心意気や決勝にかける気持ちの強さがとても頼もしかったです。その心意気に報いるような結果を出せるよう、僕も活躍したいと思いました。

 

髙野:もっといい状態で決勝に臨めていたらと、すごく悔しいですね。準決勝の前半で怪我をして、後半はもしかしたら出られるかもしれないとハーフタイムに動いてみたのですけど、全く動けなくて。「僕は何をしているんだろう」と悔しくて泣いてしまいました。でも「仲間を信じるしかない」と後半が始まった時に切り替えて、ベンチからすごく声を出しました。みんながそれに応えて勝ってくれて、本当に感動しましたし、チームスポーツっていいなとあらためて思いました。

その時点は決勝に出られるかどうかわからなかったのですが、「何がなんでも出たい」とメディカルスタッフに直訴して。決勝当日も「少しでも出て、チームの助けになれるんだったら」と痛み止めを結構飲んで出たのですが、まさかあんなに長く出場する とは想定外でしたね(笑)。アドレナリンが出ていたので案外動けたのですが、結局はレッドカードをもらってしまって、不完全燃焼な終わり方になってしまいました。

 

 

渡部:準決勝は、颯太の怪我に加えて、同じポジションの岡元(竜生)が前半に退場になってしまって。ベンチ入りした16人中2人が出られない状況で、藤本さんがポストをしたり、アイク(富永聖也)がディフェンスで複数ポジションで身体を張ったり、本来のポジションじゃないところをこなしてくれた選手たちがいました。あの試合は、僕がブレイヴキングスに入ってからの10年間で一番の総力戦でしたね。本当にチームスポーツの醍醐味というか、チームワークや総合力が発揮された試合でした。

 

 

櫻井:準決勝の相手、ジークスター東京とは、11月30日リーグ戦ではフルメンバーで対戦して27-27の引き分けだったので、前半で2人欠けた時にはすごくプレッシャーを感じましたし、かなり厳しい状況になったと思いました。

 

渡部:あの時はみんな「熱く狂っていた」というか、チームとしてゾーンに入っている感覚でした。

 

 

―チーム内大会MVPを選ぶとしたら、どの選手になりますか。

 

髙野・櫻井:キーパー陣です。

 

岡本:ディフェンス陣。

 

渡部:僕はディフェンスだったら颯太か睦哉。颯太もジークスター東京戦であれだけの怪我をしたにもかかわらず、豊田合成戦に頑張って出てくれていたし、睦哉はバラスケス選手をあれだけ思い通りにさせなかったのはすごいと思う。この2人のどちらか、いや、どちらもMVPだと思います。

ゴールキーパー 陣を含めたディフェンスを殿堂入りと考えて、それ以外で挙げるとすると、僕は吉野(樹)かなと思います。苦しい時間に点を取る、さすがエースという活躍でした。僕はその対角のポジションを担っていたんですけど、すごく助けられた時間帯、試合がありました。吉野の負担を減らせるようにもっと頑張らないと、と感じた大会でした。

 

 

「優勝しか見ていない」

 

―2月からリーグH後半戦が始まります。リーグH初代王者になるためには、何が鍵になりそうですか。

 

渡部:キーパーじゃないですか。うちのキーパー陣は毎試合セーブ率がすごくいいんですけど、出場時間をベンチ入りの2人で半々くらいで分け合っているので、(規定のシュート数に達しないため)リーグのランキングに載らないんですよ。僕としては、すごく止めているのに個人賞がとれなくてかわいそうだなと思っていて。もちろんディフェンスが機能しないと阻止率も上がらないので、日本選手権で見せたアグレッシブなディフェンスを発揮して、キーパーを含めたディフェンス陣でタイトルを総なめにしてほしいです。本人がどう思っているかはわからないですけど……。

 

岡本:僕は、チームが勝つことだが第一だと思うので、セーブ率の個人タイトルは獲れなくてもいいと思っています。

リーグの前半戦でジークスター東京に引き分けて、豊田合成には敗れているので、前半戦と全日本選手権での悔しさを後半戦にぶつけて、ここから全勝したいです。

 

 

髙野:個人的には昨シーズンベストディフェンダー賞を受賞させてもらったので、今シーズンも獲れたらいいなと思っていますけど、ディフェンスが良すぎると、キーパーにボールが飛んでいかないので、ますます阻止率のランキングに入りにくくなる。その点はキーパー陣には申し訳ないところですが、僕はディフェンスを頑張ります。

僕はブレイヴキングスに入ってから、まだプレーオフで優勝したことがないので、今シーズンこそプレーオフの優勝を味わってみたい。万年2位で「シルバーコレクター」と言われてきましたが、これからは「ゴールドコレクター」になりたい。優勝しか見ていないです。

 

櫻井:僕もディフェンスをもっと頑張ります。ラースHCからは1試合通して常に高いクオリティーを求められているのですが、日本選手権の決勝でも少しクオリティーが下がる場面がありました。優勝するためにはいかにクオリティーの高い時間を増やせるかが鍵になると思うので、常に高いパフォーマンスが維持できるようにエネルギーを注いで、優勝を勝ち取りたいです。

 

 取材・文/山田智子

2025/01/06

【FOCUS ON BRAVEKINGS #1】座談会 パリ五輪を終えて

いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございす。

ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

昨シーズン好評の中で旅を終えた「BACKYARD BRAVEKINGS」をさらにパワーアップさせ、「FOCUS ON BRAVEKINGS」として、ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」にフォーカスする、新たな旅路に出たいと思います。

第一回では今夏パリオリンピックに出場し、熱戦を繰り広げた4選手から、話を伺いました。

 

 

今夏のパリオリンピックには、ブレイヴキングス刈谷から6名の選手が出場しました。

今回はその中から岡本大亮選手、髙野颯太 選手、櫻井睦哉選手、渡部仁選手による座談会を開催。36年ぶりに自力で出場を勝ち取った世界的祭典でのエピソードや、そこで得た経験をどのように生かしていきたいかなど、話を伺いました。

 

5連敗と悔しい結果も、日本は世界と戦える手応えを得た

 

―岡本選手、髙野選手、櫻井選手は今回が初めてのオリンピック出場でした。あらためて振り返って、パリオリンピックはいかがでしたか。

 

櫻井:自分にとって、今回のオリンピックは日本代表としての初めての公式国際大会だったので、緊張もしましたし、初めてのことばかりで不安もたくさんありました。

試合に関しては、(カルロス・)オルテガヘッドコーチ(HC)の戦術が分かりやすかったので、思い切りプレーをすることができました。試合が始まる直前まで緊張していたのですが、始まってからは集中して、自分の持っているものを出し切ることができました。

 

髙野:僕は櫻井選手と違って、めちゃくちゃ緊張していて。初戦は「どうしよう、どうしよう」と結構手が震えていましたね。でも試合を重ねるごとに、日本も世界の強豪と渡り合えるという手応えが自信になって、最後は緊張せずにリラックスして試合に臨めました。

今回のオリンピックを通して、自分の持ち味であるディフェンスの能力は、世界の強い選手とも競い合えると感じられたのが一番の収穫です。自分よりももっともっとディフェンスが上手い選手もいたので、これから彼らを研究して、さらにうまく守れるようにディフェンス力を磨いていきたいと思いました。

 

岡本:予選敗退という結果については残念でしたが、すごく楽しかったです。今回のオリンピックはハンドボール人気の高いヨーロッパでの開催だったので、お客さんがすごくたくさん入っていて、良いプレーをしたら観客が盛り上がってくれるので、気持ちが上がりました。そのおかげで良いプレーができましたね。

 

 

―渡部選手は東京に続き2度目の出場となりました。

 

渡部:東京オリンピックは無観客開催だったので、正直なところオリンピックという実感があまりありませんでした。パリオリンピックに出て、国の違いを超えて大勢の観客が盛り上がっている姿を見て、ようやく自分が子どもの頃にテレビで見ていたオリンピックに出場したという実感を得ることができました。結果については、みんなも言っている通り残念でしたが、今の自分に出せる力を全て出し切ったので、総じて楽しいオリンピックでしたね。

 

―東京とパリを比べて、日本のハンドボールの成長を感じることはできましたか。

 

渡部:2大会連続で11位という結果でしたが、東京オリンピックでは1勝しているので、成績だけを見れば成長できていないと思う方もいるかもしれません。ですが、HCがオリンピックの3ヶ月前に突然変わり、戦術も大きく変わった中で、これだけの戦いができたということは、日本人選手のポテンシャルや能力が上がった証拠だと思います。ステップバイステップで日本が強くなってきたことを実感できましたし、このまま成長すれば、次のロサンゼルスオリンピックでは、東京、パリで果たせなかったグループリーグ突破ができると信じています。

 

 

―今お話に出ましたが、オリンピックまで半年を切ったタイミングでダグル・シグルドソンHCが突然辞任。オルテガ新HCが6月に日本代表に合流して、実質2ヶ月間しか準備期間がない中でチームを作り上げるのは並大抵ではなかったと想像します。またオリンピックの出場権を36年ぶりに自力で掴み取ったこと自体が、ハンドボール界にとっては大きな財産ですね。

 

渡部:これまでは、取材で目標を聞かれると、口では「オリンピックを目指します」と言ってきましたが、正直リップサービスというか、言わされている感覚がありました。

でも、今回自力で出場権を勝ち取って、もうオリンピックは夢物語ではない、手が届く目標になったと感じています。ちゃんと胸を張って「オリンピックを目指します」と言えることがハンドボール競技の地位が上がった証だと思います。

 

髙野:僕がハンドボールを始めてからずっと、ハンドボール日本代表がオリンピックに出場することがなかったので、正直オリンピックを目指そうという考え自体がなかったんですよね。僕自身も東京オリンピックの事前合宿に呼ばれて初めて、オリンピックを意識するようになりました。

 

―ハンドボールをしている子どもや若い選手にとって、オリンピックがリアルな目標になったということは歴史的な一歩といえると思います。オリンピックに出場して何か反響はありましたか?

 

櫻井:実家の近所のおじいちゃん、おばあちゃんたちから「息子さん、オリンピックに出ていたね」「すごいね」と声をかけられたり電話をもらったと家族から連絡をもらいました。なんで知っているんだろうとびっくりですよね。テレビや新聞で知ったようなのですが、やはりオリンピックの影響力は大きいなと感じました。

 

岡本:僕は山口県岩国市の出身で、もう一人、徳田新之介選手も同じ市の出身なのですが、市をあげて応援に力を入れてくれて、ドイツ戦はパブリックビューイングをしてくださったみたいです。オリンピックの後に地元に帰った時も、TVの取材を受けるなどすごく反響がありました。

 

 

1点差で惜敗した初戦が全てだった

 

―パリオリンピックでは5試合戦いました。どの試合が最も印象に残っていますか?

 

髙野:僕は1試合目のクロアチア戦です。地上波で放送される予定だったBMXが雨で中止になって、急遽ハンドボールが放送されることになったんですね。

対戦相手のクロアチアのHCが、長年お世話になった日本代表のダグル前HCだという運命のいたずらもあって、「何がなんでも勝つぞ」という気持ちで臨みました。今までやってきたハンドボールが発揮できて5点リードで前半を終えて、「これはいけるぞ」と後半に入ったのですが、徐々に徐々に追いつかれて、残り1秒で逆転されてしまい、本当に悔しいです。

 

櫻井:「たられば」になりますけど、同じ球技のバレーとバスケがその日の試合で負けていたので、もし地上波で放送されたあの試合で勝っていれば、ハンドボールの歴史が変わっていたんじゃないかと悔やまれます。1点の重みを痛感したというか、ショックが大きかったです。

 

渡部:今振り返っても、もし初戦を勝っていたら、その勢いでグループリーグを突破できていたのかなと思います。本当に初戦が全てだったなと。

実は、ダグル前HCとは、試合の前々日に食堂で会ったんですよ。勝って成長した姿を見せることが前HCに対する恩返しだとも考えていたので、そういう意味でも勝ちたかったですね。

 

岡本:僕もクロアチア戦が印象に残っています。最終的には逆転負けをして、残りの4試合も勝つことができませんでしたが、オリンピックに向けて、アントニ・パレツキGKコーチのもとでずっと取り組んできたことが、世界の舞台でも通用すると感じることができた試合でした。

 

―岡本選手はクロアチア戦のセーブ率が36%と好セーブが光りました。外国人GKコーチのもとでどのような取り組みをしてきたのですか?

 

岡本:国際試合では、日本のリーグよりシュートのスピードが速くなる。だから、ゴール全体を目で見て、反射神経だけで止めることは難しいんですよ。そのため、フォームやデータが重要になります。相手選手のシュートの傾向から予測をして、ある程度絞って、そこを集中して止めるのですが、予測と判断がうまくいきました。

 

髙野:ディフェンスの戦術としては、2枚目がアグレッシブに前に出て相手の攻撃を止めるチームルールだったのですが、それがうまくハマって、相手にボールをうまく回させないディフェンスができました。キーパー 陣も結構止めてくれて、ディフェンス全体としてうまくいった試合でしたね。

 

櫻井:仁さんが2枚目のスタート、次の交代で僕が2枚目を担当しました。こういう状況の時は前に出て相手のオフェンスを制限する、こういう場合は前に出ないで引いて守るというチームルールをしっかりと整理して挑んだので、頭がクリアな状態でプレーできたことがうまくいった要因の一つかなと思います。手応えがあっただけに、負けた悔しさもそれに比例して大きかったです。

 

 

世界トップレベルの選手から学んだこと

 

―1点。1勝。わずかですが、大きな差。この差を埋めていくために、どんなことが必要だと考えますか。

 

渡部:先日の全日本選手権も1点差で準優勝に終わったので、「1点差」は旬なワードですね……。

代表戦に限らないのですが、やはり後半の最初の10分をいかに前半の良い流れのままで戦えるかという部分が大事になると思います。リードしていると、点差を守らなければという気持ちが出てきて、どうしても攻める姿勢が失われてしまうので。

 

髙野:クロアチア戦のハーフタイムにも、「絶対に追い上げてくるから、5点のリードは忘れて、1点1点集中していこう」と話してはいたのですが、まさかこんなにリードできるとは思っていなかったこともあって、若干メンタルがふわふわしていたところがあったのかもしれません。

 

櫻井:クロアチア戦でいうと、後半の立ち上がりに相手のディフェンスが1人だけラインを上げるような戦術に変わって。対策はしてきたつもりだったのですが、戦術変更に対応しきれずに、ミスから失点するシーンが結構ありました。早い段階で修正できなかったのが敗因の一つだと思いましたし、世界で勝ち切るためには、試合の中での「修正力」が求められてくると思います。

 

 

―パリオリンピックを通じて、「この選手、すごかったな」など刺激や学びを得た選手はいますか。

 

岡本:特定の選手ではないのですが、海外の選手は球が速いことに加えて、球持ちがいい。だから、相手が打つ前に少しでも動いてしまうと、簡単に股下を打たれてしまう。実際に僕が受けたシュートの多くが股下を狙ったものだったので、先に動かず我慢する必要があると学びました。

 

―海外のGKから学んだことはありますか。

 

岡本:ドイツのシューターでワンフェイクをしてキーパーを反応させて決める、ルネ・ダムケという選手がいたんですね。僕は彼のシュートを全く取れなくて、「どうやって止めればいいんだろう」と思っていたんですけど、スウェーデンのアンドレアス・パリカ選手は独自の駆け引きでそれを止めていて。駆け引きの部分を工夫すれば通用するんだと勉強になりました。

 

渡部:僕は、マッチアップはしていないのですが、スペイン代表の同じポジションのアレックス・ドイシェバエフ選手が印象に残りました。ヨーロッパの中では小柄な選手なんですけど、日本戦のラスト10分で個人技から得点を量産して勝利に導く姿を見て感銘を受けました。得点を取ることでチームを引っ張るというライトバックのポジションの役割を果たしている、目指したい選手像だなと思いました。

 

櫻井:僕はノルウェーのクリスティアン・ビョルンセン選手に以前から好きで、シュートフォームがすごく綺麗で憧れていたのですが、オリンピック村に入ったときにたまたまお見かけして、いちファンとして一緒に写真を撮ってもらいました。

 

―素敵なエピソードですね。他にオリンピックで印象に残っていることはありますか。

 

髙野:人生で一番納豆を食べました。

 

―納豆?

 

渡部:納豆ご飯、食べましたね。

 

髙野:僕は選手村の食堂の食事があまり口に合わなくて。日本棟の中にあった、味の素さんが日本食を用意してくれる「JOC G-Road Station」に行って食べるようにしていました。G-Road があって、本当に助かりました。

 

岡本:選手村の食堂は毎回同じものが提供されるので、だんだん飽きてしまうんですよね。だから僕も途中からは、G-Roadに行って、納豆をずっと食べていました。

 

渡部:納豆以外では、開会式でカッパをもらい忘れて、びしょ濡れになったことですかね(笑)。

 

 

国内リーグでも、世界基準を意識しながら成長を続ける

 

―パリオリンピックでの貴重な経験を、どのように今シーズンに活かしていますか。

 

渡部:オリンピックが終わって1ヶ月くらいは、精神的に燃え尽きた感じがありました。練習はあったのですが、気持ちが入っていなくて、ハンドボールから離れる、休むことの重要性を感じました。だから、これまでは週5日ウエイトトレーニングをしていたのですが、今シーズンは週3日に減らしました。

 

岡本:毎日やってたんですか?! 

 

渡部:昨シーズンまでは。

 

岡本:減らしたことによって、何か変わりました?

 

渡部:今まではシーズン中に高熱を出すことが多かったんですけど、今シーズンは体調を崩す回数が減りましたね。コンディショニングがうまくいっています。

 

櫻井:僕は中学3年生の時からハンドボールノートを書いていて、毎日意識すべきこととか疑問に思うことを書き留めています。「今日は全然足が動いていなかったな」「守れていなかったな」という時に振り返って、自分の足りない部分を確認するのを習慣にしています。オリンピック期間中も続けて、それが成長につながったと実感したので、これからも続けていきたいとあらためて思っているところです。たまに仁さんに誤字脱字を指摘されたりしますけど……(笑)。

 

渡部:共有してるんですよ。

 

岡本:僕は先ほども話した通り、オリンピックでデータの重要性を再認識しました。反射神経は日によって調子がいい時と悪い時があるんですけど、データに基づいた「読み」を取り入れることによって、調子の波を抑えることができていると感じています。

 

髙野:僕は、オリンピックを経験して、ディフェンスの当たりの強さをこれまで以上に意識するようになりました。 ただ国内大会で、海外でプレーしていた時のような強度でディフェンスをすると、すぐに退場が出てしまう傾向があるので、その部分に難しさを感じています。先日の日本選手権も久しぶりにレッドカードをもらってしまいました。

 

―ラースHCもよくおっしゃっていますが、日本が世界でさらに上を目指していくためには、コンタクトの基準を世界の基準に合わせていく必要があるかもしれませんね。 

 

今日は、ブレイヴキングス刈谷にとっても、日本のハンドボールにとっても、これからの成長につながるヒントになる、貴重なお話をありがとうございました。

 

取材・文/山田智子

2024/12/26

【BACKYARD BRAVEKINGS#8最終回】トヨタ車体ブレイヴキングス 日本リーグプレーオフを終えて

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューで掘り下げてご紹介します。

 

 

2023-24シーズン日本リーグプレーオフファイナルではハンドボールの魅力が詰まった素晴らしい戦いを見せたものの、優勝にわずかに届かなかったトヨタ車体ブレイヴキングス。プレーオフの激闘の裏側と、選手、チームスタッフ、会社のチーム管理スタッフ、そしてファンの皆さんと共に成長した充実のシーズンを、藤本純季選手、吉野樹選手、岡元竜生選手、髙野颯太選手が振り返った。

 

全員が最後まで戦い続けた、悔しさと充実感の入り混じった敗戦

 

―長いシーズンお疲れ様でした。プレーオフファイナルでは、一進一退の激戦の末、またしても豊田合成ブルーファルコンに1点差で敗れました。試合が終わった瞬間はどんな気持ちが湧いてきましたか。

 

吉野:また1点届かずに負けて悔しい気持ちも当然ありましたが、このシーズンはすごく長く、ずっと休みなく試合をしてきたので、「やっと終わったー」とホッする気持ちの方が大きかったです。

去年は悔しくてめちゃくちゃ泣いたのですが、今年は全部出し切ったので、笑顔で終われました。

 

 

岡元:オリンピック予選があったので、例年は3月くらいに終わっていたリーグが、5月まで続いたので、本当に長かったですね。

 

吉野:アジア大会が2つあったので、10月だけで国際試合が14試合あって、トヨタ車体から6、7人日本代表に選ばれました。日本代表選手もハードでしたけど、チームに残った選手たちも少ない人数で練習するので、おそらく走り込みなど、体力的にきつい練習になったと思います。

 

岡元:人数が少なくなっても、練習時間は全く変わらないので、シンプルに運動量が増えます。キツかったですね。

 

藤本:日本代表のいない間の練習は、本当に頑張ったよね。

 

 

―ファイナルから少し時間が経った今、客観的に試合を振り返って、「1点」の差はどこにあったと分析していますか。

 

吉野:うーん、分からないです。試合を見返したりもしたのですが、別にどこが悪かったというのはなく、全員が全力で戦った結果がこうだったというか……。

あえて言うなら、日頃のトレーニングでどれだけ「日本一」を目指して取り組んできたかという部分で、豊田合成との差がわずかに出たのかなと。考えられるのは本当にそれぐらいで、僕らは全く悪いプレーをしていなかったし、最後まで勝負しにいっていました。

 

 

藤本:何度もリードされた展開で、よく毎回追いついたなと思っています。ゴールキーパーの加藤芳規が7mスローを2回くらい止めて命拾いしたところも含めて、豊田合成に試合の流れを持っていかれそうな場面でも粘って粘ってついていった。後半は本当に何回も「もうダメだ」と思う瞬間がありました。

でも、強いて言うなら、速攻で外したあれじゃない?

 

吉野:俺か(笑)! あの1点か! (髙野)颯太がめっちゃ空いてるのに、自分で打って外してしまった。

 

髙野:信用されてない……(笑)。

 

吉野:後で映像を見返したら、颯太がめちゃくちゃ空いてるのに、あの瞬間は見えていないんだよね。

 

藤本:他にも追いつけた場面が結構あって、そのどこかで逆転できていたら、そのままの勢いで勝てた可能性はあったけど、相手のゴールキーパーが当たっていたね。

 

吉野:いろいろとミスはありましたが、本当に全員が全てを出し尽くした試合でした。

 

 

―プレーオフで印象に残っているプレーはありますか?

 

岡元:(2ndステージ・ジークスター東京戦の前半終了間際の)吉野さんのスーパーロングシュートです!

 

髙野:あれは、すごかった。

 

藤本:入ると思わんかった。

 

岡元:あれ、僕のパスです。キャッチしやすかったでしょ(笑)?

 

吉野:ありがと!

 

 

吉野:残り4秒でタイムアウトを取って、ラース・ウェルダーHC(ヘッドコーチ)からは「僕が(渡部)仁さんとクロスをして仁さんが最後シュートを打つ」という戦術を言われていたのですが、「4秒ではムリだよ」って思って、仁さんに「打っていい?」って聞いたら「いいよ」と言ってくれたので気持ちよく打ち抜きました。

 

藤本:球、めっちゃ速かったよね。軌道もディフェンスを超えたらすっと落ちて。落としたの?

 

吉野:狙い通りです(笑)。真ん中に身長2m級の選手がいたから、ちょっとでもかすって、軌道が変わって入ったらと考えて打ちましたが、願った通りの感じで入りました。

 

藤本:キーパーが届かなくて、バーにあたって入るあたりが憎らしいよね。

 

 

吉野:映えましたね(笑)。

 

岡元:前半3点差で終わるか4点差で終わるかは相手のメンタル的に大きかったよね。

 

吉野:あの時、「勝ったー」って思っちゃったよね。

 

髙野:あとは、櫻井(睦哉)のジークスター東京戦の(シュートを)8分の8で決めたのもすごかったね。

 

岡元:気合が入ってましたね。

 

 

好調の要因はディフェンス。守備の要の髙野がベストディフェンダー賞を獲得。

 

吉野:僕が記憶に残っているのは、ジークスター戦で元木(博紀)さんが速攻で突っ込んだのを颯太が利き手側に入ってチャージを取って、そのまま速攻に転じた場面。あそこで「元木押さえた。勝った!」って思った。

 

藤本:勝った回数多くない(笑)?

 

 

吉野:今シーズンはディフェンスがすごく良くて、好調の要因はそこだったと思っています。

 

岡元:ディフェンスの要がいいからね。

 

藤本:うちからベストディフェンダー賞が出るのは久しぶりだからね。

 

吉野:颯太、ベストディフェンダー賞獲ってから、ちょっと大きくなったよね。

 

髙野:なってない!! でも、やっと獲れました。

 

 

―具体的にディフェンスのどんなところが変わったのですか。

 

岡元:これまでの「身体を止める」から、「ボールを取る」ディフェンスシステムに変えたところが大きかったと思います。それでいきなり社会人選手権で優勝できて、「取りに行く」ことでこんなにも豊田合成の得点を抑えられるんだと、「今シーズン、いけるぞ!」と確信が持てました。さすがに豊田合成はリーグ戦では修正してきましたけど……。ラースHCが去年までの僕たちの試合を見て、ディフェンスを変えた方がいいと考えて、少しシステムを変えただけでこんなに変わるんだと不思議でしたね。

 

吉野:それに加えて、ラースHCは相手選手が9mの点線の中に入ってきたら、汚い言葉ですけど「殺せ」って言うんですよ。あとは相手の利き手側に立つことも徹底されます。

試合でも練習でも、それができていなかったらラースHCに激怒される。その部分の動画を切り抜かれて、みんなの前で注意されるので、それが嫌でみんな必死でディフェンスする。技術というよりは闘うマインドの変化が大きいと思います。

 

 

藤本:守った後に感情を表現する選手が多くなったよね。それも、相手から見るとすごく嫌なことだよね。

 

岡元:特に4月のホームゲームのジークスター東京戦はみんなギラギラしてたよね。約2,000人のファンの人たちに会場を盛り上げていただいたので、出場しているメンバーだけが戦っているのではなく、会場全体でジークスターを倒しにいっている感覚がありました。あの時のディフェンスは本当にすごかったですね。

 

吉野:今年は得点を取った時よりもディフェンスで守った時の方が盛り上がってるよね。

 

髙野:ディフェンスは楽しいです。得点を取るよりフリースローをとる方が僕は嬉しいですね。相手の考えていることを読んで潰せると楽しいし、それが快感でやっています。

 

 

「今年のチームは過去最強」(岡元)

 

―ディフェンスの話なども出ましたが、今シーズンは社会人選手権で優勝し、日本リーグのレギュラーシーズンもずっと1位、2位で推移してきました。ラースHCのもとで大きく成長したシーズンだったと思います。

 

 

岡元:僕は8シーズンが終わったところなのですが、今年が過去最強のチームだったと感じています。これまでは接戦で勝ちきれなかったり、追いつかれると、そのままズルズルと逆転負けしてしまったりすることが多かったのですが、今シーズンは力で突き放す、押し切ることができる。この長いリーグを戦い抜けるくらい、力のあるチームになったと思います。

 

藤本:ケガ人がいた中でも問題ないくらい層が厚くなりました。アイク(富永聖也)が3枚目をやるようになって成長して、颯太、アイク、櫻井など若い世代に引っ張られるようにチーム全体のディフェンスの意識が上がっていきました。加藤芳規とか北詰明未とか活躍したし、成長した選手が多かったシーズンでしたね。

 

 

吉野:今シーズンはポストシュートがすごく増えたよね。

 

岡本:今シーズンはブロックを敷くか、スペースに動くかはポストプレーヤーの判断に任されている。颯太もタイミング見て動いて点を取ったり、ポストプレーヤーが動くことによってできたスペースをサイドが使ったりと、色々な選択肢が生まれるようになりました。プレーオフでもありましたが、得点が欲しい時にアイデア一つで得点が取れるようになったのは大きな変化だと思います。

 

 

ホームで試合をするのが楽しかった

 

―先ほども会場の盛り上がりの話が出ましたが、今シーズンは選手、チームスタッフ、そして会社のチーム管理スタッフが連携し、みんなが同じ想いをもって進化した1年だったと思います。

 

吉野:今シーズンは楽しかったです。豊田合成には負けてしまったんですけど、他のチームには全て勝てましたし、充実した1年でした。

 

藤本:ホーム戦がすごく楽しかったよね。いろいろな会場で試合をするから、ホーム戦の雰囲気の良さが際立つよね。

 

岡元:いろんな人から、「トヨタ車体のホーム戦は演出がすごいね」って言われました。行きたい、行きたいって。いい席を取るために、すごく早い時間から並んでいるって聞きました。

 

 

―開場前から行列ができて、走って入ってくる人も多いです。

 

岡元:僕たちも最初、スパークや炎が出たりするのは知らなかったのでびっくりしました。「いつも通りですけど」みたいな顔をしていましたが、内心ドキドキでしたね。

 

高野:選手の名前入りのタオルも、目立っていいよね。相手は絶対嫌ですよね。赤一色に染められて。

 

藤本:昨シーズンまではプレーオフは特別感があったんだけど、今はホームゲームの方がすごいから、プレーオフも全然緊張しなかったよね。

 

吉野:本当にホーム戦は楽しかった。チームとファンと会社がより一つになったシーズンだったと思いますし、それもあって楽しかったですね。

 

 

「ステップアップしていくイメージしかない」

 

―総合的に「土台」ができた1年だったと思います。さらに来シーズンはパウエル・パチコフスキー選手も加入します。選手目線で、どのようなチームづくりをしていきたいと考えていますか。

 

藤本:この1年だけでも積み上がっている感覚がすごくありますし、ここからステップアップしていくイメージしかないです。引退する選手もいますが、ベースは大きく変わらないし、おそらくラースHCも1年目に全部詰め込んだ訳ではないと思うので、ここから上がっていく未来しか見えないですね。

ラースHCが加わっただけで、マインドがこれだけ変わったので、外国人選手が入ることでどれだけ刺激があるのか楽しみです。

 

岡元:ポストとしては、難しいパスを取った時が一番楽しいので、パウエル選手がどんなパスをくれるんだろうとワクワクしています。

 

吉野:コミュニケーションの面は、少し不安じゃない?

 

藤本:でも、日本語を勉強しているらしいよ。

 

岡元:僕は同級生なので、タメ口でいく予定。

 

 

藤本:でも英語だと、タメ口かどうかも分からなくない? 仁とかはコミュニケーション取れると思うけど、パウエル選手が来て最初の2ヶ月間は日本代表組がいないからね。

でも、とりあえず、いっしょに飯に行けば、なんとかなると思う。

 

吉野:外国人選手のポジティブなマインドは素晴らしいと思っています。豊田合成も戦力という意味だけではなくて、外国人選手が加わって雰囲気が変わった印象があります。プロフェッショナルな選手からいろいろ盗んで、みんながワンランクレベルアップすれば、来シーズンこそ優勝できるんじゃないかと思っています。

 

―今シーズンは試合を重ねるごとにホームゲームではお客様が増えていきました。ファンがチーム、選手を支え、応援していただけることのありがたさを実感したシーズンであったと思います。最後にファンの皆さまへメッセージをお願いします。

 

髙野:今シーズンは皆さんの応援の声が試合を重ねるごとに大きくなっていって、それが僕たちの力になりました。結果で恩返しをしたかったのですが、今シーズンはそれができなかったことが悔しいです。来シーズンこそは優勝して、結果で皆さんに恩返しがしたいと思います。

 

岡元:今シーズンは会場一体で戦っているとすごく感じたシーズンだったので、颯太も言いましたけど、それを来シーズンは必ず結果でお返ししたいです。優勝した時の会場の盛り上がりを想像するだけで気持ちが高まります。その瞬間を皆さんと一緒に味わえたら最高だなと思うので、必ず優勝します。

 

吉野:今回のプレーオフで負けて、たくさんのファンの方が泣いているのを見て、それくらい一緒に戦ってくれているんだと、あらためて心強さを感じました。来シーズンはみんなで喜びを分かちあえるように頑張ります。

 

 

藤本:僕は13シーズン目が終わったんですけど、今年は過去で一番強いチームだったし、応援してくれる方もすごく増えて、本当に一番いいシーズンだったと思います。

この年齢になってこんなに良い環境で日本一を争うことができているのは本当に幸せだなと感じますし、この幸せな時間が長く続けばいいなと思います。

今のこのメンバーはもはや優勝争いをするのは当たり前。一度優勝するだけでなく、ずっと優勝し続けてほしい。

 

吉野:これ、ファンの方に向けたメッセージですよね?

 

藤本:俺は今、お前らに言ってるの!

 

吉野、髙野、岡元:(笑)

 

藤本:だから、ファンの皆さんにはその過程をずっと見守って、応援していただけたら嬉しいです。

 

<編集後記>

スポーツライターに必要な才能は何か。

ここだけの話を聞き出す取材力? 面白い原稿を書く文才? もちろんそれも必須ではありますが、最も大切なのは「その時、その場にいること」だと私は考えています。

そういう意味で、今シーズンのトヨタ車体ブレイヴキングスの旅に伴走できたことはこの上ない幸運でした。

会場を訪れるたびに、チームも会場の雰囲気も劇的に進化していく。そのエキサイティングな過程を、選手・スタッフの声を、言葉として残す。スポーツライター冥利に尽きる大役を任せていただき、ありがとうございました。

来シーズンはいちファンとして観客席で、優勝の喜びを一緒に味わいたいと思っています。

 

取材・文/山田智子

2024/06/07

【BACKYARD BRAVEKINGS#7】門山哲也チームディレクターインタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

今シーズンからチームディレクターとしてチームを支えている門山哲也さん。選手、アシスタントコーチ、ヘッドコーチの経験を生かし、ラースヘッドコーチと二人三脚で「チームを内側から鍛える」役割を担っています。新たな立場で得た気づきや、今後どのようなチームを作り上げていきたいか、その想いを聞きました。

 

新たな役職で、チームに、ハンドボールに恩返しがしたい

 

―今シーズンより新たにチームディレクター(TD)に就任されました。チームの中でどのような役割を担っているのでしょうか

 

門山:今シーズンは初めて外国人コーチのラース・ウェルダーヘッドコーチ(HC)を迎えました。ラースHCの目指す方向性と、トヨタ車体ブレイヴキングスがこれまで築いてきた歴史などを含めた価値観をつなぎ合わせることが僕の主な役割です。通訳として言葉のつなぎ役をすることもあれば、選手、コーチングスタッフ、会社の間に立って、それぞれの考えを円滑につなぎ合わせることもします。

ラースHC体制が好循環しているのは門山TDの貢献によるところが大きい

 

―門山TDが、選手・アシスタントコーチ・HCとさまざまな経験をしているからこそ担える役割ですね。

 

門山:僕も海外でプレーした経験があるので、言葉が通じない、文化の違いがある国で生活するしんどさは理解できます。そうした状況でも、ラースHCはチームを強くするために全力を注いで戦っています。だから僕も、彼が能力を100%発揮できるよう最大限サポートしたいと考えています。

HCは孤独な仕事です。経験しないと分からない大変さがあります。ですから、ラースHCと食事やウェイトトレーニングを共にして、なるべく長く時間を共有し、彼の考えていることを理解するようにしています。それは自分自身の学びにもなっています。

試合の表情とは別にチームのためには時にGMやマネージャーのような幅広い役割をいとわずこなす

 

―どんなところにやりがいを感じていますか。

 

門山:TDはこれまでチームになかった役職です。前任者がいない分、フレキシブルに、自分に何ができるのかを考えさせてもらえる。僕は人生をかけてハンドボールに取り組んできましたし、ハンドボールに育ててもらったので、恩返しをしたいという思いを強く持っています。このチーム、そしてハンドボールのために、今僕にできることや求められていることを考え、それに挑戦できることに非常にやりがいを感じています。

 

―門山TDから見て、ラースHCはどんなコーチですか。

 

門山:彼が最も大事にしていることは、どんなことがあっても互いにリスペクトし合うことです。選手はそれぞれいろいろな考えを持っていますが、互いに尊重し、全員が優勝したいという思いを持って努力し続けることが大事だと、ラースHCはいつも話しています。

ラースHCは非常に負けず嫌いで、選手以上に勝ちたい気持ちが強い。「今シーズンは絶対に勝つ」「負けてオフを迎えるなんてごめんだ」と毎日口にしています。

また、日本人選手はポテンシャルがあって、まだまだ伸び代がある。「こんなレベルで満足してはいけない」「もっとできる」とも言い続けています。彼自身もコーチとしての向上心が高く、「次はこんなことをやってみたい」とアイデアが尽きない。ハンドボールのことを考えるのが楽しくて仕方がないようで、夜の10時頃に、「テツ、今、前節の試合の映像を見ていて、こんなことを試してみたいと思ったのだけど、どう思う?」と電話してきます。もし僕がその映像を見ていなかったら怒られます(笑)。

そういう厳しい面もありますが、「勝ちたい」「選手を成長させたい」「いいチームにしたい」という思いが滲み出ているので、選手もスタッフも信頼してついて行きたいと思えるのではないでしょうか。

リーグ屈指のバックプレーヤー渡部でも門山の存在は特別だ

 

ブレイヴキングスの価値は「強さ」「成長環境」「熱狂」

 

―ラースHCの招聘に続き、2024-25シーズンにはポーランド代表のパウエル・パチコフスキー選手の加入が発表されました。次々と新しいことにチャレンジする理由を聞かせてください。

 

門山:人が成長し続けるためには刺激が必要です。組織も同じで、変化をしないことは停滞だと、僕は考えています。ですから、外国人に限らず、社外から人を迎えるということは、チームを良くしていくために欠かせないことだと思っています。

僕も、僕の前のHCの香川(将之)さんも、選手時代からトヨタ車体にいるので、このチームのことはよく分かっています。だから結束力は高かったと思うのですが、与えられる刺激は少なかった。ラースHCが来て、チームにとてもいい風が吹いています。一人でこれほど空気が変わるのだと、強く実感しているところです。

TDになって、あらためて「このチームに求められていること」「このチームが提供できる価値」を考え直し、ブレイヴキングスの目指す果たすべきビジョンを作り上げました。現場として、フロントとして、会社として何をすべきなのか、このチームに関わる全員が共通理解を持つべきだと考えたからです。そのビジョンに基づいて、新しい取り組みを行なっているところです。

 

―「ビジョン」について詳しく聞かせてください。

 

門山:このチームの大きな価値の一つは「強い」ということです。常に優勝争いをできる位置にいるチームだということ。今年、来年、優勝するということだけではなく、5年後も10年後も勝ち続けるチームであること。ラースHCも「大事なことは自分がいなくなっても勝てるチームを作ることだ」とよく話しています。

2つ目が、「選手が成長し続けられる環境を提供できる」こと。トヨタ車体ブレイヴキングスには日本代表選手が多く所属しています。だから自分たちが勝つことだけを考えていればいいわけではありません。このチームから世界を目指していく選手を一人でも多く輩出すること、しかもより強い状態で送り出すこともこのチームの役割だと思っています。

選手は自分の成長に無意識のうちに蓋をしてしまうことがあります。現状に満足せず、まだまだ上があると感じられるように、「選手を内側から鍛えること」も僕の仕事だと考えています。

選手時代に単身デンマークに渡った経験、選手兼任監督で苦労した経験すべてが今に生きている

 

―パウエル選手には、今いる選手を内側から鍛えるための新たな刺激になってほしいと期待しているということですね。

 

門山:ラースHCがいま必要としていることは、言葉では伝えきれない「本物」を選手に分かってもらうことです。パウエル選手は単なる“助っ人”ではなく、ラースHCの求めるスタンダードを体現し、長くチームに影響を与え続けてくれることを期待しています。

例えば、渡部仁選手と吉野樹選手が海外に短期留学しました。彼らは日本のトップ選手で、国内に数人しか競争相手がいない。彼らは自分を律して一生懸命トレーニングをしてくれていますが、このチームだけで新しい刺激を受け続けることが難しい状況にあります。彼らが海外で新しい刺激を受けたことによって成長し、それをチームにも還元してくれることでチーム全体が成長できています。

それと同じように、左利きのパウエル選手は渡部選手にはすごくいい刺激になるし、二人で切磋琢磨することで、選手としての可能性をもっと広げられる。渡部選手は日本のハンドボール界にとっても重要な選手で、彼が成長すれば日本代表の強化にもつながります。さらに練習で対峙する吉野選手や富永聖也選手なども刺激を受けると思いますし、パウエル選手には色々な影響を与えてくれる存在として期待しています。

 

―今のお話を伺って、Jリーグの創成期を思い出しました。ジーコら世界的選手が来日し、日本のサッカー界にプロとしてのスピリットをインストールした。それが日本のサッカーが強くなっていく礎となりました。

 

門山:その通りです。ジーコが所属していた鹿島アントラーズは長い間強豪であり続けていますし、日本のサッカー界に良い影響を与え続けていますよね。ブレイヴキングスもハンドボール界でそのような存在でありたいと思います。

 

―ジークスター東京がプロチームとしてハンドボール界に新たな風を吹かせていますが、トヨタ車体という実業団チームが新たなチャレンジをすることは、別のインパクトがあると思います。

 

門山:おっしゃる通りで、僕たちは他のチームのロールモデルとなり、日本ハンドボール界へも貢献する重要なポジションにいるチームだと考えています。

ありがたいことに、このチームに関わってくれる人は、ファンも、社員も、非常に熱量が高い。自分たちもブレイヴキングスの一員であり、一緒に戦いたいと思ってくれている。僕たちは泥臭いチームで、スマートではないかもしれないですが、皆さんはそこに魅力を感じてくださっています。「一緒に熱狂できること」がこのチームの良さであり、大事にしたい3つ目の価値です。

 

―これは私個人の考えですが、今シーズン、ブレイヴキングスが成長し続けたことが、日本代表がパリ2024オリンピックの出場権を獲得したことに影響を与えたように感じています。

 

門山:僕自身も日本代表として何度もオリンピックに挑戦して勝ち取れなかったので、本当にすごいことを成し遂げたなと思いますし、少し羨ましい気持ちもあります。そして切符を勝ち取った大会の主力をブレイヴキングスから何人も輩出できたことを誇りに思います。

ラースHCが来て、この1年間で日本代表選手の成長が加速したことも大きいですし、代表選手のバックボーンには日頃このチームで一緒に切磋琢磨している選手の存在があります。そういう意味で、オリンピックの切符を取ることにチームとして貢献できたのであれば、とても嬉しく思います。

いつもはにこやかな門山も試合中の気迫は並々ならぬものがある

 

「新たな成長期」を迎えた今シーズン、優勝することで成長を証明したい

 

―いよいよプレーオフが始まります。昨シーズンの日本リーグプレーオフは豊田合成ブルーファルコンに1点差で敗れて準優勝に終わりました。今年の日本リーグ優勝にかける思いを聞かせてください。

 

門山:去年は延長の末に1点差で敗れました。最善は尽くしましたし、優勝するチャンスが目の前にあっただけに悔しい気持ちもあります。でも僕自身は「優勝するためにはまだ何か足りないんだぞ」と言われている気がしました。

あの日から1年間、優勝するためにチーム全員で取り組んできて、少しずつ形になってきました。昨シーズン足りなかった1点が埋まってきたという手応えがあります。

 

―豊田合成ブルーファルコンとの今シーズンの対戦成績は1勝2敗です。

 

門山:敗れた2試合はいずれも1点差でした。もしかしたら「まだ1点足りないぞ」と言われているのかもしれないですが、僕には去年の1点とは全く違う1点に思えます。

豊田合成さんがチームとして円熟味が出てきている一方で、僕たちはこの1年で新たな成長期を迎えています。昨年末の段階では1点足りなかったかもしれませんが、そこから5ヶ月で僕たちは大きく成長できている。だから、必ずひっくり返せると自信を持っています。

 

今年は例年以上に重要なシーズンです。初めて外国人HCを迎えるという新たなチャレンジをして、選手たちもラースHCの求める基準に応えようと成長してきました。優勝できれば選手はさらに自信を持てるし、会社としてもこのやり方が良かったと確認することできます。そしてそれは次の一手につながっていきます。自分たちが良い方向に進んでいると確認するためにも、なんとしても優勝をつかみたいと思います。

 

取材・文/山田智子

2024/05/16

【BACKYARD BRAVEKINGS#6】富永 聖也選手インタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

今回は若手選手をクローズアップ:成長著しい入団2年目の富永聖也選手。着実にプレータイムを伸ばし、荒削りながらも攻守にわたって存在感を増している。しかし順調に見える今シーズンは、裏ではいろいろと悩み試行錯誤の連続だったという。

 

ラースHC(ヘッドコーチ)のもとで、飛躍した一年

 

―入団からの2年間でどんな部分が成長したと感じていますか。

 

富永:入団当初は体重が84キロほどしかなく、ディフェンスで押し込まれることがありました。体重を増やし、体幹を鍛えたことで、当たり負けもしなくなってきました。

分岐点になったのは、昨年のプレーオフで左肩を脱臼したことです。自分は試合中に病院に運ばれ、勝ってくれ、ファイナルに進んでくれとただ祈るだけでした。みんなが頑張って、試合に勝ったよ、次はファイナルだよと電話してくれて号泣してしまって。このチームで良かったなとめちゃくちゃ思いました。しかし最後まで戦えなかったのはやっぱりとても悔しかったです。

昨季のプレーオフ決勝は激闘を見守ることしかできず そのくやしさが成長につながった

 

その後は2〜3ヶ月ボールに触れなかったのですが、ちょうどオフシーズンだったので、体づくりにじっくりと向き合うことができました。

大学時代に肩の怪我をした時は、試合に出たい気持ちが先行して、無理してプレーを続けた結果、怪我を長引かせてしまいました。今回はその経験を生かして、しっかりと治すことができましたし、課題であった体幹トレーニングに取り組むよい機会にもなりました。

 

―プレーの面では、どのような成長を感じていますか。

 

富永:今シーズンはラース(・ウェルダー)ヘッドコーチ(HC)に代わって、自分自身のやるべきことも変わりました。最初は戸惑うこともありましたが、最近はプレータイムも伸びて、大きく成長できた一年だったと感じています。

得意のディフェンスで速攻につなげチームに流れをつくる

 

―役割はどのように変化したのでしょうか。

 

富永:僕は(吉野)樹さんの交替で出る形が多いのですが、今まではあまり流れを考えずにガンガンシュートを打って、その結果流れを悪くしてしまうことがありました。

「途中から出る選手にはチームの雰囲気や流れを見る役割がある。1人でガンガン攻めすぎるのは、例えて言うなら、周りが正常運転なのに、1人だけバイクでずっとふかしているようなものだ。今、チームがどのような状況にあるのかを考えてプレーしろ」とラースHCにみんなの前で叱られて、それから流れを意識してプレーするようになりました。

ディフェンスについては、最近は真ん中を守ることも多いですし、自信を持っています。しっかりとディフェンスして、そこから速攻につなげて、ゲームの流れを作る役割を担っていきたいです。

 

―今シーズン、自分の強みを最も発揮できたと感じるのはどの試合ですか。

 

富永:昨年6月の全日本社会人選手権大会は調子がよく、リーグ戦もこのままの調子でいきたいと考えていたのですが、調子を落とし、プレータイムをもらいながらも得点ができない試合が続きました。シュートも入らないし、思ったプレーができない。「なんでなんだろう」と半年ほど悩み続けて、ようやく12月の日本選手権くらいから自分のプレーができるようになってきました。今年4月のジークスター戦では自分のやりたかった動きができて、自信になりました。

 

―自分のやりたかったプレーとは?

 

富永:カットインが好きなので、間を割るプレーや相手の隙を突く動きは自分の強みだと思っています。最近はアシストも好きになってきました。ポストパスやサイドへのパスは練習の成果が出てきているので、自分が点を取るだけでなく、周りを生かすことにも楽しさを感じています。また、ポストプレーは今シーズン通して強化してきたポイントで、少しずつ納得のいくプレーができるようになってきています。

プレーの幅を増やすため体幹を強化

 

―今のお話を聞いて調べてみたのですが、前半9試合のシュート率は37%、11月の琉球コラソン戦から4月のゴールデンウルヴス福岡までの後半12試合は60%と大幅に伸びていますね。悩んでいた半年はどのように過ごしていたのですか。

 

富永:コアトレーニングを徹底的にしましたし、食事の面もYouTubeを見て自分なりに勉強しました。

 

―YouTubeで学ぶというのが、今どきっぽいですね。

 

富永:いろいろと研究する中でたどりついたのが、バスケットボールNBAの選手のYouTube。NBA選手は身長も高くて体重もあり、スピードもパワーも必要な競技なので参考になると考えました。お米をパンやパスタなど小麦になるべく変えて、朝食も寮の食事だけではなくシリアルや自分で用意したバナナを食べています。今はよいコンディションが保てているので、これを継続したらこの先どれぐらい強化できるのだろうと、楽しみながら試しています。

富永の持ち味はしなやかでダイナミックなプレー

 

レベルの高い環境の方が成長できる

 

―ブレイヴキングスは日本代表選手も多く、他のチームであれば先発で出られる力を持った選手がなかなかプレータイムを獲得できない状況にあります。その点についての葛藤はありませんでしたか。

 

富永:樹さん、(渡部)仁さん、杉(杉岡尚樹)さんなど代表選手が多いことは入団前から分かっていました。大学の監督からも「試合に出られないかもしれないぞ」と言われましたが、簡単な道よりもいろいろ経験ができる方が自分にとってもプラスになると考えました。

僕は熊本の天草という田舎の出身で、高校時代は無名でしたが、そこからいきなり東京の大学に行きました。その時と同じで、レベルの高い場所に飛び込んだことで濃い経験を積めています。2年目でこんなに長く試合に出られると思っていなかったので、順調というか、うまく行き過ぎているくらいです。

 

―吉野選手、渡部選手、杉岡選手との差はこの2年間で縮まってきていると感じていますか。

 

富永:縮まっていると思いたいんですけど……。彼らは“天才”なので、簡単には届かないです。個人技でも点が取れますし、相手を見てプレーできますし、本当にすごい選手たちです。

ラースHCからは「吉野に勝たないとスタートでは出られないよ」とずっと言われているので、勝てるように頑張っています。

 

―1月のアジア選手権では日本代表でも活躍しました。その経験はどのように生かされていますか。

 

富永:一番学んだのは戦う姿勢です。ダグル(・シグルドソン前)HCの「人生をかけて戦え」という言葉が最も心に残っています。海外の選手は人生をかけて挑んできているので、僕たちはそれを跳ね返す強い気持ちで戦わないと相手にならないと思い知らされました。試合に対する気持ちを変えることが大きく変わったところです。

完全アウェーの中、バーレーンに勝てたこともいい経験でしたし、決勝のカタール戦では、グループステージとは全く違う戦う姿勢を見せつけられました。人生を賭けて戦う人はこんなにも目の色が変わるんだと目の当たりにしたことは大きな経験でした。

 

―先ほど熊本の天草の出身という話が出ましたので、子どもの頃のお話を聞かせてください。

 

富永:同級生は男子4人、女子4人の8人。保育園から中学までずっと一緒に育ってきました。小学校ではサッカーをしていたのですが、中学校は部活がハンドボールしかなかったので、必然的にハンドボール部に入ることになりました。中学校の前に川があるのですが、釣りをしたり、練習で汗をかいて汚れたらそのまま川に入ったりして楽しい子ども時代を過ごしました。

 

―中学校は藤本純季選手と同じ都呂々中学校。藤本選手、富永選手、そして岩下祐太(トヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀)とハンドボールの日本代表選手を3人も輩出しています。

 

富永:僕を指導してくださった監督のお父さんが監督を務めていた30年ほど前に日本一になったことがあります。僕たちの頃は人数も少なかったので、県大会にも出ていませんし、天草市の大会で負けることもあったのですが、練習は厳しく、朝8時半から12時半まで走りっぱなしということもよくありました。

バネを生かした高い打点からのシュート シーズン後半は精度が大幅向上しシュート率6割を越える

 

―富永選手はウガンダ出身の父と日本人の母のミックスルーツを持っています。そのことで悩んだことはありませんでしたか。

 

富永:小さい頃は悩んだこともありましたが、スポーツを始めてからはそういういうことも気にならなくなりました。最初は下に見られることもあるのですが、いいプレーをすれば何も言われなくなります。そういう経験を経て、ハングリー精神が強くなったと感じています。

僕は英語が話せないのですが、外国の方から英語で話しかけられたら困ってしまうのと同じで、初対面の人は僕とどうコミュニケーションをとったらいいのか困惑しているだけなのかなと割り切れるようにもなりました。

バスケットボール日本代表の八村塁選手にも勇気をもらいました。肌の色が違うと日本人と見なされないこともありますが、八村選手が日本人としての誇りを持って戦っている姿を見て、「僕も日本人でいていいんだ」と感じることができるようになりました。僕も将来的に日本人としての誇りを持って海外でプレーしたいという目標を持っているので、彼の活躍は励みになります。

 

ハンドボールを理解しているファンの存在が成長を促す

満員のお客さまの声援が富永を熱くする

 

―4月6日のジークスター東京戦では約2,000人のファンの前でプレーオフ進出を決めました。

 

富永:たくさんのファンの皆さんの前でプレーできて、本当に楽しかったです。ブレイヴキングスの選手は大舞台になればなるほど活躍する人が多い。たくさんの声援と華やかな演出で素晴らしい雰囲気を作ってもらって、負けるわけにはいかないですからね。

ブレイヴキングスのファンはとても温かくて、ハンドボールを理解している方が多い印象です。試合中も「がんばれ」「ここだぞ!」と励ましてくれるので、すごく力になっています。チケット代を払って観にきてくれるファンのためにも下手なプレーはできません。「しっかりプレーしなければ」という自覚も強くなりました。

同期の櫻井睦哉と 若手の成長がチームの飛躍のカギ

 

―若手選手から見て、今シーズンのチームはどこが変わったと感じますか。

 

富永:一番違うのは気持ちの面ではないでしょうか。去年までは相性の悪い相手に対しては少し弱気になってしまうところがありました。今年はそれぞれの役割がはっきりしていることもあって、対戦相手がどこであろうと自分たちのやるべきことをやれば勝てるという自信を全員が持っています。ラースHCがそれぞれの役割ややるべきことを徹底していることもありますし、練習からアグレッシブにプレーしているので、試合の方が楽に感じるということも大きいと思います。

 

―今後に向けて、あらためて意気込みを聞かせてください。

 

富永:リーグ戦を1位で通過して、プレーオフもしっかり勝って、ファンの皆さんに恩返しをしたい。

個人的にはしっかりと与えられた役割を果たせるように、練習にしっかりと取り組んでいます。調子の良かった4月のジークスター戦のパフォーマンスを継続できるよう、準備をしっかりして、どんな状況でも自分のプレーができる選手になりたいです。

パリ五輪も目指しています。一つの課題をクリアするとまた次の課題が出てくるので永遠に完成はないですが、一つひとつ乗り越えながら成長を続けていきたいです。

 

発行/2024年4月
取材・文/山田智子

2024/04/26

【BACKYARD BRAVEKINGS#5】ホームゲームの舞台裏 運営スタッフインタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

「勝てる会場」から「お客さまに楽しんでいただけるホームゲーム」へ。満員のアリーナを目指した運営スタッフの2年間の挑戦

 

ここ2年にかけて、ブレイヴキングスのホームゲームが劇的に進化している。2月のウィングアリーナ刈谷での試合はハンドボールでは驚くべき1,800人を集客。華やかな演出で観客を驚かせた。今回は縁の下の力持ちとなってホームゲームを作り上げている、トヨタ車体人事室のメンバーである伊藤さん、川合さん、上田さん、鈴木さんに、その舞台裏を聞かせてもらった。

 

―今シーズン、何度かホームゲームを拝見しました。訪れる度に演出が進化し、それにともなって観客の数も右肩上がりに増えているのが印象的です。そこで今回はホームゲームの運営スタッフの皆さんにホームゲームの裏側についてお話を聞いてみたいと考えました。ホームゲームの改良プロジェクトはいつから始まったのでしょうか。

プロジェクトが始まる前は純粋に競技を見せる場所だった

 

伊藤:僕が初めて見た試合会場は、選手の所属職場の応援旗が掲出されているだけで、ほとんど何もない状態でした。「ハンドボールはマイナースポーツだし、こんなものなんだな」と思っていました。しかし選手と話をする中で、「バスケットのように満員のお客さまの前で試合したい」という強い想いを持っていることを知りました。

うちのチームは強いのですが、日本リーグでは2018/19シーズンに優勝したものの、昨シーズンまではずっとシルバーコレクターで、優勝にあと一歩届かない状況でした。だからどうすれば優勝させられるのか考えていました。

しかしながら、優勝するためにはチームを強化するだけでは不十分です。ファンの皆さまの声援がなければ、選手が100%の力を発揮することができません。アリーナを満員にすることが、結果として選手を強くし、勝つことによってファンの皆さまに喜んでいただける。「勝てるホームゲームを創って優勝したい」というのがプロジェクトの起点でした。

 

―そこからどのように進められたのでしょうか。

 

伊藤さん:お金をかければ、派手な設えはできるかもしれません。でも、それだけでアリーナを満員にすることは難しいだろうと考えていました。まずは、従業員、地域、ファン、子どもたちに愛されるチームになること、ブレイヴキングスの価値を高めることが先決であり、そのためには我々運営側、選手、チームスタッフの三者が協力し合うことが必須でした。最初に着手したのは、選手のマインドを変えることです。選手への説明会を開き、「プレーの向上を目指すだけではなく、ファンサービスをしっかりして、選手一人一人が愛されるチームになろう」と説明しました。あわせてチームスタッフにも協力してもらえるように話をしました。その説明会でも話したのですが、理想は阪神タイガース。勝っても負けても常に満員になる、愛されるチームです。

 

―以前は、ファンサービスは全くされていなかったのですか?

 

鈴木:リーグからの要望で選手サイン会をすることがあったのですが、それもコロナ禍以降はやらなくなってしまいました。

 

伊藤:本当にゼロからのスタートでした。選手の写真が入ったクリアファイルとハリセンを作って、従業員受付の横で販売するところから始めました。

 

鈴木:それだけでも、私たちにとっては大ニュースでしたね。でもほとんど買ってもらえませんでした。

 

伊藤:僕と鈴木さんは広報の出身なので、PRやイベントに関するノウハウは持っています。しかしファンの方が何を求めているのかというデータは全くない。なんらかの策を考えたとしても、それが本当にファンの方が求めているものなのかが分からず、悩みました。

 

―それでどうされたのですか?

 

伊藤:まずはスポーツマーケティングの本を読んだり、アリーナスポーツを軒並み観にいったりして、ひたすら勉強しました。ホームゲームでどのようなイベントをしていて、何がお客さんに刺さっているのか。お客様を気持ちよく迎えるためにどのような考えで設営がされているのか、それこそどんな素材が使われているかまで。壁を叩いて木工なのか鉄骨なのか確かめたり試合を全然観ないで裏方のスタッフの動きばかりを見たりしているので、非常に怪しい客だったと思います。

 

それまでも少しずつ策をトライしていたのですが、去年の始めにホームゲームの来場者を500人から5,000人にするための取り組みをまとめた「5,000人プラン」を作りました。5,000人は大袈裟ですが、約2,500人入るウィングアリーナ刈谷を埋めたいというのが本音の目標でした。トヨタ車体はエンタメの会社ではありませんし、ハンドボールの運営スタッフは僕も入れて4~5人なので、川合、鈴木、上田は本当に大変だったと思います。

 

上田:お客さまに対しては22-23シーズンからはほぼ毎試合来場者アンケートを取り、何を求めてホームゲームにきてくださっているのか、トライしてみたことが受け入れられているのか、どこを改善してほしいと期待しているのかを、リサーチしています。

 

カラーを統一しブランディング創りを進めているホームゲーム

 

 

「かっこいい」と「やさしい」でファンの心を掴む

 

―お客さまに喜んでもらうための具体的な取り組みを教えてください。

 

川合:アンケートの結果、予想以上に女性のお客さまが多いことに驚きました。そこで、ポスターや映像など選手のかっこよさを全面に出した、女心をくすぐるPRを展開していきました。チームカラーでもある赤と黒をブランドカラーにして、会場の装飾やグッズもおしゃれでかっこいいものに統一しました。

「かっこいい」をテーマにブランディングを進める中で、選手の私服の写真を撮ってみたら、思いの外かっこよいものになったというような、私たちの中での発見もありました。ややミーハー目線ではあるのですが、「推し」選手をたくさん作ってもらえたら、選手も嬉しいでしょうし、私も楽しいので、誰かのファンになってもらいたいと思いながら進めてきました。

 

伊藤:推し選手をもっと応援してもらうためグッズも選手のネーム入りタオルなど「個」のものを増やしました。今シーズンは選手一人一人のリール動画も作ってSNSで流しているのですが、ファンの方にもとても喜んでいただけています。

 

上田:アンケートでも選手のファンサービスがとてもやさしいという声を多くいただきます。

 

距離感の近さが好評。ファンの反応が伝わってくるのは選手にとってもうれしい

 

伊藤:うちの選手は本当にファンサービスに協力的で、練習や試合後で疲れていても嫌な顔ひとつしません。サイン会などのイベントでは、お客さまが揃ってから選手が迎えられるというのが普通だと思うのですが、うちの選手はお客さまより前に来て準備しているときもあるくらい、ファンサービスを大事にしてくれています。

 

川合:以前、試合後のサイン会に選手がすごく遅れて、伊藤さんがスタッフに激怒したからですよ。

 

伊藤:せっかく苦労して集客しているのに、イベントでお客さまをお待たせして、そこに不満を感じてしまったら二度と来てもらえません。お客さまに気持ちよく帰っていただくためには、一つ一つのことを大切にしなければならないと分かってもらいたかったので厳しく言いました。今はその考えが全員に浸透していると思います。

 

上田:次もまた来たいと思っていただきたいので、アンケートでの厳しい声は可能な限り次の試合までに対応するようにしています。例えば、「会場の案内が分かりにくい」「会場の音量が大きい、小さい」など、毎試合改善を繰り返してきました。

アンケートを重ねながらこうしたファンサービスを創り上げてきた

 

―トライして改善する、を繰り返した結果、2月18日にウィングアリーナ刈谷で開催された大同特殊鋼戦は、約1,800名の観客が入り、立ち見も出るほど盛り上がりました。

 

伊藤:試合後の選手がサインボールを投げ込んでいるときに、スタンドのたくさんのお客さまが推し選手のネームタオルを振っている光景を見て、川合さんと「目指していた光景になってきたね」と話をしました。選手、チームスタッフ、運営スタッフ全員が頑張ってきた結果であり、「ようやくここまできたか」と感動しました。

 

川合:満員のアリーナが目標と言ってはみたものの、もっと先だと思っていたので、本当にうれしかったですね。

VIP席も、企画した当初は売れなかったらどうしようという悩みがありました。それが今回は発売3分で完売。買えなかったお客さまがSNSなどで残念がっているという、私たちが想定していなかった新たな悩みが生まれています。

 

コート間近で迫力が魅力のVIP席はリピーターも多い

 

―VIPシートはいつから始めたのですか?

 

伊藤:昨シーズン、試合前のコートサイドでウォーミングアップの様子を見られる「激感エリア」を試しに作りました。それが思いのほか好評で、間近で選手を見たいというニーズがあることが分かりました。そこで、コートサイドの席を40席販売することにしたのですが、正直お金を払ってまで見てもらえるかには自信がなかったです。

 

上田:シーズンの前半戦は1席、2席売れ残っていました。今ではVIPエリアが即完売するだけではなく、定価で一般席チケットを買ってくださる方が2倍になりました。

 

メンバーのアイデアで実現した高揚感を高めるゲート

 

―ウィングアリーナ刈谷での試合は、入り口までアプローチにカッコいいゲートとレッドカーペットで非日常へ誘ってくれるような演出がされていて、感動しました。

 

鈴木:いつもと違う非日常感の景色にしてお客様をびっくりさせたいとゲートを作ったのですが、皆さんが非常に喜んでくださいました。手間がかかるらしく職人さん泣かせでしたがチャレンジしてよかったと思っています。

 

―選手入場時の映像や花火の演出には多くのお客さまから「すごい!」という歓声が上がっていましたし、選手も驚いていました。

 

伊藤:選手には事前に伝えていなかったので、驚いていたようです。

 

緻密なタイムコントロールが必要で伊藤を悩ませた演出は無事成功

 

上田:あの日のアンケートは、選手入場の映像がすごくよかったとか演出についての良い意見ばかりでした。選手からも「最高だった」「気持ちよかった」「やる気が出た」と言われましたね。ホームゲームの前日はいつも、「お客さまが来てくださるだろうか」「準備が足りずお客さまからお叱りを受けないか」と不安で眠れないのですが、2,000人の光景を見て今までの苦労が吹っ飛びました。実はもう一つ、個人的なことですが、あの試合でとても嬉しいことがありました。刈谷大会の前に入籍をしたのですが、リハーサルの時にビジョンにサプライズでお祝い映像が流れ、人事室の運営スタッフの仲間や門山哲也チームディレクターがプレゼントをしてくださいました。試合の準備で忙しい中で、このような機会を作ってくださったことに感謝していますし、それを見ていた大同特殊鋼の選手から「選手と運営スタッフの距離が近くていいね」と言っていただいたことも嬉しかったです。

 

 

ホームゲームのファンサービスでもNo.1を目指す

 

伊藤:でもまだまだ道半ばです。僕は、チケットを買って観にきていただけるお客さまで毎試合ホームゲームを満員にしたい。この2年間はとにかく認知を上げたいと積極的に子どもたちの招待を行ったりリピーターになってもらえるようなイベント企画をしたりという種まきをしてきました。来シーズン以降は、その種からたくさんの花が咲けばいいなと願っています。

 

上田:例えばバスケットボールのシーホース三河さんやバレーボールのジェイテクトSTINGSさんはチケットが争奪戦だと聞きます。チケットが買えないくらいの人気がハンドボールにも出るといいなと思います。

 

川合:選手も変わってきましたが、私たち運営スタッフのマインドもこの2年で大きく変化しました。以前は伊藤さんの方針に応えるという「待ちの姿勢」だったのですが、自分が考えたことが形になると楽しくて、どんどん自分たちから提案していこうという気持ちに変わってきています。私たち自身もスキルを磨いて成長してきています。

 

伊藤:川合さんたちから、お客さまに喜んでもらうためにこれをやりたいというアイデアがたくさん出てきます。我々がやっているイベントなどはこうやって全て自分たちで考えて試行錯誤しながらやっています。協力会社に企画をしてもらうことはしていません。この手作り感は絶対に大切にしなければならないと思っていて、愛情のあるアリーナにしていきたいという考えを基軸としています。たった4~5人で、しかも女子バレーボール部クインシーズの運営も掛け持ちでやっている小さな所帯ですが、川合さんや上田さんらのもの凄いパワーと頑張り、チームワークがプロジェクトを支えてくれています。

 

「勝てるアリーナを作りたい」と始めたプロジェクトですが、この2年間で「お客さまに楽しんで帰っていただきたい」と方針が変わってきました。

今、チームは1位、2位をずっと走り続けてくれています。チームが日本のハンドボールを引っ張っていく自負をもって一生懸命取り組んでくれているように、我々もホームゲーム運営の面でNO.1になってハンドボール界を牽引していきたいと考えています。

世の中にたくさんの余暇を楽しむものがあります。その中からご家族や友人同士で今日はブレイヴキングスの試合を観に行こうと選んでいただけるような会話が自然と生まれる日常を作りたいと思っています。

ハンドボールは本当に観ていて楽しいスポーツです。もっとたくさんの方にハンドボール、ブレイヴキングスの試合に来ていただけるよう取り組んでいきたいと思います。

 

こちらもあわせてご覧ください

トヨタ車体ブレイヴキングス ホームゲームレポート

 

発行/2024年3月
取材・文/山田智子

2024/03/29

【BACKYARD BRAVEKINGS#4】コートサイドMC 川道良明さんインタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

トンがった髪型にハーフパンツがトレードマーク。2020-21シーズンからコートサイドMCを務める川道良明さんは、選手がコートで生み出す熱狂を「声」で最高潮まで高める。川道さんがコートサイドMCとしての心構えや目指すアリーナ像などについてたっぷりとお話をうかがった。

 

“異次元”のプレーに感動。初めて見た日からハンドボールの虜に

 

―川道さんが務める「コートサイドMC」とは、どのようなお仕事ですか。

 

川道さん:コートサイドMCには大きく2つの側面があります。1つめは、観戦に際しての注意事項やおすすめのイベントを伝えたり、選手の名前や背番号、ハンドボールのルールを説明したりするアナウンサー的な役割です。試合前やハーフタイムのイベントの進行役を務めることもあります。もう一つは、応援の先導役となって、ファンの方と一緒にアリーナを盛り上げる役割です。

 

―今回のインタビューにあたり、川道さんにも注目しながらホームゲームを拝見しました。選手紹介一つとっても、相手チームとブレイヴキングスでは声の大きさや語尾の伸ばし方を変えるなど細かな技があって、さすがプロだなと感心しました。声で会場を盛り上げるために意識していることはありますか。

 

川道さん:ブレイヴキングスを盛り上げたいという気持ちが強いので、ブレイヴキングスの選手紹介や「ゴーーール!」の声はフルパワーでコールします。一方で相手チームへのリスペクトも欠きたくはありません。そのバランスを大事にしています。
選手紹介は、語尾をパシっと切った方がかっこいいのか、伸ばした方が盛り上がりそうなのか、名前によって変えたり、選手がコートに入ってくるスピードによっても変化させたりしています。毎回来られるお客さまの中には、「今日、語尾を少し変えていたね」と気づいてくださる方もいてうれしいです。
選手入場の曲がかかると、それが僕にとってもスイッチになります。曲に合わせてカチッと自分の中のボルテージが上がります。選手にとっても入場曲とコールが戦闘モードに変わるスイッチになればいいなと思っています。

 

―川道さんはどのような経緯でトヨタ車体ブレイヴキングスのコートサイドMCになられたのでしょうか。

 

川道さん:僕は15年ほどラジオのパーソナリティを続けています。元々はラジオの裏方でしたが、携わっていた番組にキャラクターとして出演する機会があって、とても楽しかったんです。先輩ディレクターにも背中を押してもらい、MCの道に入りました。その時まですっかり忘れていたのですが、小学校の時に放送委員としてお昼休みにしゃべっていたことがあり、昔から人前で話すことが好きだったのかもしれません。
2015年からサッカーのスタジアムDJを務めることになり、2020-21シーズンからはトヨタ車体ブレイヴキングスのコートサイドMCも担当させていただいています。

 

―ハンドボールの経験はありますか。

 

川道さん:僕の通った小中高、専門学校にはいずれもハンドボール部がなかったので、ハンドボールに触れる機会は体力測定のハンドボール投げだけ。全くハンドボールとの縁がありませんでした。
初めて試合を見た時、目の前で起こることの何もかもが異次元で信じられませんでした。ものすごく高いジャンプをしてシュートを打つ。それをキーパーが至近距離で止める。攻守の切り替えもスピーディーで、他のスポーツなら一発でレッドカードが出るくらいコンタクトが激しい。これまでサッカーやバレー、バスケなど色々なスポーツを見てきましたが、ハンドボールの選手は飛び抜けて身体能力が高くて、強い。すっかりハマってしまい、「ハンドボール、すごい!」「想像の10倍はおもしろいから、一度観にきて」と周りに言い続けています。
経験がない分、乾っからのスポンジのようにどんどん吸収できました。選手はもちろん、レフェリーの人を見ても楽しいですし、ルールを覚えるにつれて面白さが増してきました。だから初めて観戦される方がどんなところに分かりにくさを感じるか、どうしたらもっと楽しんでいただけるか、自分の経験から考えることができます。それはコートサイドMCとしての僕の強みかもしれません。

 

―試合中に丁寧なルール解説をしているのは、そうした背景もあってのことなんですね。

 

川道さん:「今なんで笛が鳴ったの?」ということが、徐々にわかるようになればハンドボールをより深く楽しめます。
例えば、試合中に汗が床に落ちた時にはモッパーがコート整備をしますが、汗がコートに落ちていると選手が転びやすくなってしまうという理由を知らなければ、お客さまにとってはただの待ち時間になってしまいます。そういう時間を利用して、少しでもハンドボールへの知識を深めてもらえればと思って、話すようにしています。

 

ラジオの生放送の経験がスポーツの現場で生きる

 

―ラジオとスポーツの現場ではどのような違いがありますか。

 

川道さん:ラジオのパーソナリティはスポーツのMCに向いていると思います。ラジオの生放送は、その日のテーマやおおよその流れは決まっているのですが、視聴者からどんなメールやSNSのメッセージが届くかわかりませんし、途中でニュースが飛び込んでくることもあります。そのようなアクシデントを数多く経験したことが、試合の展開やお客さまの盛り上がり方よって臨機応変な対応を求められるスポーツの現場で生かされています。
一番の違いは、直接お客さまのお顔を見て話すところです。キャーと歓声が上がったり、手を叩いて喜んでくれたりとリアクションを目の前で見ることができます。自分の声がちゃんと届いている実感があって、うれしくなりますね。放送席にいるときもそうですが、特にお客さまの近くに行く際は、一人ひとりと目を合わせて話すようにしています。

 

 

―そのほかに会場の空気を作るために心がけていることはありますか。

 

川道さん:例えば大差でリードしている試合は、お客さまに少し余裕が出てきてしまいます。そういう会場の雰囲気は選手にも伝わりますので、「最後の1分、1秒まで何が起こるかわからないので、応援してください」と会場を引き締めるようにしています。
また、ミスが続いてチームの雰囲気が悪くなっている時には、攻守が変わるタイミングで「切り替えて!」とお客さんに言うふりをして、選手にメッセージを送ることもあります。

 

―ナイターゲームの時に光るメガネをかけられていましたが、ホームゲームの演出にはどれくらいかかわっているのですか。

 

川道さん:演出に関しては、トヨタ車体の人事部の皆さんが考えて進めています。そこに川道良明にしかできない味付けをしていきたいと考えています。
11月の大崎電気戦は18時試合開始で、「ナイトフィーバー」がテーマでした。会場にはミラーボールの装飾がされ、音楽もディスコ調のものが多いと聞いていたので、前日に慌ててパーティーグッズを探しにいきました。別のナイターの日には、ブラックライトに反応するスプレーで髪の毛を染めたこともあります。

 

―これまでに印象に残っている試合を教えてください。

 

川道さん:素晴らしい得点シーン、すごく感動した試合にも数多くありますが、忘れられないのはコロナ禍の無観客試合です。選手を鼓舞しようと「ディフェンス、ディフェンス」とか声を出すのですが、どこからもリアクションが返ってこない。ハンドボールの花形であるスカイプレーや劇的な逆転劇があっても、全く盛り上がらない。お客さまがいたら、ここで会場がワーっと歓声が上がって、応援の声で選手たちを勢いづけられるのにと悔しくて悔しくて。会場にお客さまの声が戻ってきたときは、本当にうれしかったです。

 

選手の背中を押せる、熱いアリーナを作りたい

 

―今シーズンのトヨタ車体ブレイヴキングスは13勝1敗(1月21日現在)で首位と好調です。放送席から見ていてどのような変化を感じますか?

 

川道さん:昨シーズン、最後の最後で勝てなかったという悔しさがあり、優勝に向けた思いがさらに一段階強くなった印象を受けます。昨シーズンのプレーオフファイナルを現地で観ていたのですが、僕でさえすごく悔しかったので、選手はもっと悔しかったに違いありません。今シーズンはヘッドコーチが変わったことに加えて、優勝という明確な目標に向かってチームがまとまっていることで選手一人ひとりのポテンシャルが引き出されているように思います。
選手の、そして応援しているファンの悔しい顔はこれ以上見たくありません。今シーズンは笑顔で終わりたいです。

 

 


―川道さんにとって、理想のアリーナとは?

 

川道さん:男子日本代表がオリンピック出場を勝ち取ったことでハンドボールへの注目度が上がり、お客さまも少しずつ増えています。でもハンドボールのお客さまはどちらかというと、試合にグッと入り込んで観ている方が多く、おとなしい印象を受けます。だからワーっと大声を出したり、悔しがったり、チームへの愛情表現をもっとストレートに出してほしいと思います。
苦しい時に、選手の足をあと一歩前に出させるのは応援してくれるファンの声です。僕もその一端を担っていきたい。お客さまと一緒に最高に盛り上がったアリーナを作り、選手を後押しして、チームの勝利に貢献したいです。

 

発行/2024年2月
取材・文/山田智子

2024/02/03

【BACKYARD BRAVEKINGS#3】渡部仁選手インタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。

トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタービューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

36年ぶりに自力でオリンピックの切符を勝ち取ったハンドボール男子代表「彗星ジャパン」。10年近く日本代表の中心選手として活躍し、歴史的快挙達成に貢献した渡部仁選手は、アジアを代表するライトバックとして今なお進化を続けている。

今回は渡部選手のインタビューに加えて、北詰選手からも渡部選手のすごさを聞いた。

 

入団時から鍛え続けたフィジカルが武器

 

―11月25日の大崎電気戦で通算800得点を達成されました。

渡部選手:2011年の入団当初は、ポジションも今とは違うライトウィング(RW)でしたし、800得点を達成できるとは全く想像していませんでした。自分はスタープレーヤーではないと思っているので、まずは試合に出る、次は新人賞を取る、個人タイトルを取る、日本代表になるというように、目標を一つひとつ着実にクリアすることでステップアップし、ここまで来たという感覚です。

 

―RWからライトバック(RB)へコンバートしたのはいつ、どのようなきっかけだったのでしょうか。

 

渡部選手:日本代表のヘッドコーチがダグル・シグルドソンさんに代わって少し経った頃なので、3〜4年前。たしかヨーロッパ遠征の直前の合宿だったと思います。練習中にRBの選手が怪我をして、急遽RBを紅白戦でやることになりました。そこで評価されて、ヨーロッパ遠征中もRBとしてプレーしました。

 

―RWとRBではかなり役割が違いますが、すぐに順応できるものなのでしょうか。

 

渡部選手:大学2年生までRBをやっていたので、全く初めてというわけではなく、プレーに関してはそこまでギャップは感じませんでした。ただ大学と日本代表では求められるレベルが格段に違うので、自分としては評価されるほどのプレーではなかったと思っています。

 

―RBにコンバートして、苦労したことはありましたか。

 

渡部選手:RWはディフェンスの時に相手のエースとマッチアップをしなければなりません。僕は身長が183cmなのですが、日本代表でも平均以下、海外だとほとんどの選手が自分より大きい。この身長で戦うために色々な工夫をしてきました。

 

―“工夫”についてもう少し詳しく聞かせてください。

 

渡部選手:フィジカルを鍛えて、コンタクトで負けないことです。U21代表として国際試合を経験して以来ずっとテーマにしています。フィジカルトレーニングを10年以上続けてきて、ようやく最近「アジアでは負けない」と感じられるようになりました。

 

―体重が100kgあると聞いて、大変驚きました。その体重であれだけ俊敏に動ける選手を他にあまり見たことがないので。

 

渡部選手:「100kgの人の動きではないですね」と良く言われます。

 

身体はただ大きくすればいいというわけではありません。僕も大学から社会人になったときに、みっちりとウエートトレーニングをして2、3ヶ月で80kgから93kgまで増やしたのですが、あまりに急激に増やしたせいで、全く動けなくなってしまった経験があります。

そこでフィジカルコーチやアスレティックトレーナーから姿勢や身体の使い方について聞いたりしながら、自分なりに工夫して、段階的、継続的に取り組んできました。後輩の川﨑駿選手もウエートトレーニングの知識が豊富なので、話を聞きながら一緒にトレーニングしています。

 

―「渡部塾」と呼ばれているそうですね。

 

渡部選手:僕は元々身体能力が高かったわけではありません。トレーニングによって、ジャンプ力、パワーやスピード系の数値を上げて後天的に手に入れたタイプです。だから今のキツいトレーニングの成果が、1年後、2年後、10年後必ず出てくると信じています。川﨑選手、最近は北詰明未選手なども一緒にやるようになっているんですけど、若い選手には半ば強制的に取り組ませています。

 

さらに強いチームになるためには、意見をぶつけ合う風土が必要

 

―今年3月~5月にクウェートリーグのAl Qadsiaへの短期移籍を経験しました。そこでもセルビア人の監督が渡部選手のフィジカルを高く評価していたと聞きました。

 

渡部選手:チームメイトにはクウェート代表選手が多くいましたが、その中でも継続して取り組んできたフィジカルトレーニングは自分の一番の武器であると自信を深めることができました。

 

―他にクウェート移籍で得たものはありますか。

 

渡部選手:初めてプロ選手としてプレーし、試合で結果を残す重要性を痛感しました。
ある試合で得点は1点にとどまったものの、10アシストくらいしたことがあったんですね。僕としては周りを生かして、チームの勝利に貢献できた手応えがあったのですが、オーナーから「お前の役割は点を取ること。3日後の試合でも点を取れなかったら、日本行きのチケットを用意しておく」と激怒されました。ああ、これがプロの世界かと。
次の試合はとにかくシュートを打ちまくって、チームで最も点を取ったんです。でも外したシュートも多かったし、アシストは0だったので、自分としては満足度が高くなかった。でも試合後ロッカールームに入ってきたオーナーが「これこそ俺がお前に求めていたことだ」とがっちりと手を握ってきて。いまいち納得はいかないですけど、このチームで評価されるためには得点を取らなければいけない。プロとは、勝つこと、点を取ることといった結果だけを評価される厳しい世界だと思い知りました。

 

―全員が自分の結果を求めすぎると、チームのバランスが崩れそうな気もします。

 

渡部選手:他にフリーの選手がいるのに僕が無理にシュートを打ったとき、日本であれば「今、空いてたよ」くらいで終わるんですけど、クウェートでは「なんでパスしないんだ。俺のシュートチャンスを奪うな」と怒鳴り合いになります。みんな生き残るために必死なんです。
練習中もチームメイト同士で殴り合い寸前の喧嘩が見られます。チームメイトも止めずに、「あれも必要なことだから」と見ています。極論で言えば、仲が悪いけど舞台に立つと面白いお笑い芸人のように、勝つという同じ目標を向いていればいいということなんですね。
コートの上では先輩後輩は関係ないと言いますが、やはり日本人はどこか遠慮してしまうところがあります。日本代表は海外でのプレーする選手が増えてきたので、自分の思っていることを言い合う風土ができつつある。ここ数年で代表が急成長したのはそういう要因もあると思っています。
だからトヨタ車体でもそういう環境を根付かせたい。僕は今33歳でチームでは上から3番目なのですが、若い選手には殻を打ち破って、いつでも我慢せずに言ってきてほしい。その方が僕自身も成長できますから。

 

豊田合成戦の負けを活用して、二冠を達成する

 

―今シーズンは三冠を目指していましたが、昨日の日本選手権では惜しくも準優勝でした


渡部選手:今の気持ちは、悔しいという言葉しか出てきません。リーグ戦も日本選手権決勝も豊田合成相手に1点差で負けてしまった。基礎基本の大切さを痛感させられました。ミスが多いと相手にもチャンスを与えることになってします。
個人目標では、シュートミスゼロ、テクニカルミスゼロ、ディフェンスももちろんしっかり当たるということを取り組んでいますが、満足いくものではなかった。まだまだ改善の余地があり、伸びしろがあると思っています。

 

―とはいっても、社会人選手権でも優勝、リーグ戦では13勝1敗で首位と好調です。その要因をどのように捉えていますか。

 

渡部選手:確かに結果を残せていますけど、日本選手権は優勝を逃しましたし、僕としては手応えを感じていません。この感覚を言葉で説明するのは難しいのですが……。例えば、リーグ戦では次の試合に向けて一週間準備して臨みますが、万全だと思えることが少ないんです。「これでいいのかな」と確信を持てないまま試合に入って、結果的には勝利できている。
なぜなんだろう、とずっと考えていたのですが、紅白戦のときのBチームのレベルが高いことが一因ではないかと分析しています。紅白戦ではBチームが次の対戦相手がやってくるであろう攻撃や守備を再現します。先日もすごく走ってくるチームで、練習では全く守れなくて、大丈夫かなと思っていたのですが、試合が始まったら、「あれ、Bチームより遅いぞ」と拍子抜けしたというか。手応えは感じていなかったものの、実際には対策ができていたんですね。レベルの高い選手同士で練習ができていることで、このような現象が起きているのだと思います。
もちろんBチームで満足する選手はいません。競争が激しく、切磋琢磨し合えているのが良い結果につながっていると感じています。

 

豊田合成戦の負けを、各選手がどう捉えるかがすごく大事です。負けを活用するというか、この負けがあったからよかったと言えるシーズンにしたい。
もちろん本音は、負けなしで終わりたかったです。でも良くなかった部分が明確で、対策・改善できる負けだったので、これをチャンスに変えていくしかない。

 

―良くなかった部分、対策・改善すべき点とは?

 

渡部選手:常々ラース・ウェルダーヘッドコーチから言われているのですが、12月2日の豊田合成戦は前半後半のスタートの10分が良くなかったことと、シュートミスではないミス、例えばキャッチミスやパスミスが相手の2倍多かった。それでは勝てない。パスは基本中の基本。もう一度一人ひとりが基本を徹底し直さなければいけないと思います。

 

―最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

 

渡部選手:ちょうどシーズンも折り返しですが、後半のチームの最大の目標は日本リーグ優勝を達成すること。そのためには応援してくださる方の力が不可欠です。可能な限り会場に来て、僕たちの背中を押していただけるとうれしいです。
個人的には、日本代表はパリ五輪の出場を勝ち取りましたが、まだメンバーに選ばれたわけではない。メンバー争いを勝ち抜けるよう、一日一日、一試合一試合成長していきたいです。

 

インタビュー中、最近「渡部塾」に入塾したというセンターバックの北詰選手が通りかかったので、渡部選手について話を聞いてみました。

 

―渡部選手はチームにとってどのような存在ですか。

 

北詰選手:ここぞという時にしっかり仕事をしてくれる左のエース。頼もしい先輩であり、目標とすべき存在です。アジアでもトップレベルのフィジカルを持っていて、その武器を生かしたプレーが非常に勉強になります。

ハンドボールの練習が夕方5時くらいに終わるのですが、それから8、9時くらいまで居残ってフィジカルトレーニングをしていて、チームのフィジカルレベルが仁さんのおかげで底上げされています。

最近僕も同じグループでトレーニングをしているのですが、ついていくだけで精一杯です。でもトレーニングを始めてから当たり負けしなくなったし、体の軸がしっかりしたので以前よりシュートの精度が上がった実感があります。

ハンドボール以外の部分で言うと、少しやんちゃですね。しょっちゅう誰かにちょっかいを出しています。人と接するのが好きで、よく人を観察している。チーム全体を俯瞰して見ていて、練習前にちょっとふざけたりしてチームを明るくするようなムードメーカーの一面もあります。僕もいじられることが日常茶飯事です。

 

―CBの北詰選手から見たRBの渡部選手はどんなプレーヤーですか。

 

北詰選手:自分の強みを理解していて、チームの方針に則ったプレーを基盤にしながらも、そこにプラスアルファでオリジナリティを出している。得点が取れないときなどに、プレーに少しアレンジを加えて、「えっ、そこから打っちゃうの?」みたいなシュートを決めてくれるので、僕としては「ありがとうございます」みたいな感じですね。

(大崎電気戦での)スカイプレーも元々そういうプレーを用意していたわけではなく、試合中に僕が「次、ちょっとやってみましょう」と耳打ちしてやりました。仁さんはそういうときにも臨機応変に対応できるのがすごい。他の選手だとおそらくできないです。経験もありますけど、型に囚われすぎない柔軟性やユーモアみたいなものがあるからできるのだと思います。最初にも言ったんですけど、ほんと頼りにしています。

 

 

発行/2023年12月
取材・文/山田智子

2023/12/18