いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございます。
ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。
174得点、シュート率69.4%、そして史上最年少での通算1000得点達成———
ラース流ハンドボールの浸透とともに、キャリアハイづくしのシーズンを送ったエース・吉野樹選手。初の1位通過で迎えるプレーオフへの思いを聞いた。
得点&シュート率ともにキャリアハイ更新の充実のシーズン
―今シーズンの吉野選手は、174得点(リーグ3 位)、シュート率0.694(リーグ2位)といずれもキャリアハイでした。
吉野:バックプレーヤーのシュート率は6割でも高いと言われているので、約7割という数字は自分でもびっくりしています。要因としては、プレーの面とプレー以外の面と両面あると思っています。
―まずはプレー面での変化を教えてください。
吉野:今シーズンは、アシストをすることに取り組んできました。これまでは自分にマークがついていても無理にシュートを打つことがありましたが、アシストを意識することでそうした場面が減りました。
周りを生かすことによって、相手のディフェンスが他の選手に寄るので、ズレができて、自分は広いスペースを使って攻められます。確率の高いところで勝負ができていることが、シュート率の良さにもつながったのだと思います。
自分としてはアシストを意識していたので、今シーズンはあまり得点をとっているイメージがなかったんですよ。パスを出しているんだけど、最終的にボールが自分に返ってきて、気がつけば点を取っていたみたいな感覚です。
―なるほど。チーム全員として確率のよいシュートを選択できているということですね。シュート率ランキングは杉岡尚樹選手が1位、吉野選手が2位と、1位2位を独占したのはそうした背景もあったのですね。
アシストに取り組んだのは、ラースHCのアドバイスがあってのことですか。
吉野:そうです。ラースHCからは常々「50%以下の確率でシュートを打つな」と言われているので、シュートとパスの判断力がついてきています。確率が高いところで勝負する、スペースの広いところで勝負するのが前提にあるので、自分もそのようなメンタルになっています。ラースに染まっていますね、僕(笑)。
―プレー以外の面での要因にはどんなことがありますか。
吉野:シーズンを通して、よいコンディションを保てていることですね。今シーズンは「ハードトレーニング・ハードリカバリー」をテーマに、ハードなトレーニングをして、それと同じくらいしっかりとストレッチやケアに時間をかけてきました。トレーニング前に1時間かけて身体をほぐし、2〜3時間トレーニングをして、終わった後はまた1時間以上かけて身体を元通りにする。最近はそれに加えて、夜にヨガをしています。
―ヨガをはじめるきっかけが何かあったのですか。
吉野:僕は今年31歳になるんですけど、年々身体が硬くなっていくし、疲れも取れにくくなってきて……。病院の方に相談したら、「ヨガを始めると全身が柔らかくなるよ」とおすすめされました。すぐにYouTubeで調べて試してみたら、本当に変わったんですよ。
普段からストレッチはしていたんですけど、それだと決まった部分しか伸びていない。でもヨガをすることによって、『意外とこんなところが硬かった』『ここが使えてなかった』と気づくことができる。全身が整うので、今シーズンは大きなケガもなく、ほぼ全試合に出場することができました。家でも遠征先でもできるし、ヨガ、すごくいいですよ。おすすめです。
―チームとして確率のよいプレーができていることとコンディションのよさなど、様々な要因が重なってよい結果が出ているのですね。
3月29日に行われた福井永平寺ブルーサンダー戦では、史上最年少で通算1000得点を達成しました。
吉野:1年目から毎シーズン「1試合6得点、シュート率60%」という目標をずっと掲げて、こつこつと積み重ねてきた結果だと思います。チームメイトのおかげもあって点が取れているので、記録についてはあまり意識していなかったのですが、福井永平寺戦だけはすごく意識しましたね。ホームのファンの皆さんの前で達成したかったし、セレモニーも用意しているからと言われていたので(笑)。
―パープルユニフォーム着用した「刈谷シリーズ」の日でしたね。
吉野:あの試合は今シーズンの中でも一番印象に残っています。試合に勝ってプレーオフ進出が決定したことと僕の1000得点達成と……。
―加藤芳規選手がフィールドシュート阻止通算900本達成と、渡部仁選手の通算900ゴール達成セレモニーもありました。
吉野:仁さんが、「セレモニーが霞んだ」と言っていましたね(笑)。お祝い事が重なったので、すごく記憶に残っています。
コートにいるだけで安心感を与えられるのが「エース」
―吉野選手はブレイヴキングス刈谷でも日本代表でも「エース」と呼ばれていますが、ご自身が「エース」だと自覚を持ったのはいつ頃ですか。
吉野:僕はあまり自信がない人間なので、自分ではそんなに「エースだ」とは意識してきませんでした。入団2年目くらいから、当時現役だった門山(哲也/現チームディレクター)さんから「お前がエースだ」「お前がやらなくて、誰がやるんだ」とずっと背中を押し続けてもらったことが大きかったですね。チームメイトから必要とされることで徐々に自覚が芽生え、さらに2年目に日本代表に選ばれて、国際試合を経験したことで、「自分がやらなきゃ」と思うようになりました。
だから、1年目のプレーオフはすごく緊張したのですが、2年目のプレーオフの時には「チームを勝たせたい」とメンタリティが変わっていました。実際に優勝することができて、MVPも獲れたので自信になりました。
―「エース」として、チームにとってどのような存在でありたいと考えていますか。
吉野:得点を取るポジションなので、まずはプレーで引っ張っていきたいという気持ちがあります。加えて、「吉野がコートに立っていたら大丈夫だ」と安心感を与えられる存在でありたい。現役時代の門山さんがまさにそうでした。熱い言葉、溢れ出るパッション。その姿を見ているだけで「俺もやらなきゃ」と周りの選手も熱くなってくる。僕とは違うタイプですけど、こういう人がエースなんだと思いましたね。
―熱い言葉というお話がありましたが、先日菅野純平選手にインタビューした際に、吉野選手に「純平さんならいけますよ」という声を掛けられて、スイッチが入ったという話を聞きました。言葉でもチームを引っ張ることも意識していますか。
吉野:常にポジティブな声かけをすることを大事にしています。純平さんへの言葉はそのひとつだったのかもしれないです。
でも、純平さんこそ、いつもポジティブで熱い声を掛けてくれるんですよ。4年前、2021年のプレーオフの決勝戦、仁さんが前半だけで4点くらい決めてリードしていたのですが、その後ケガをしてしまって。後半になって、豊田合成(ブルーファルコン名古屋)にどんどん流れを持っていかれた時に、ベンチにいた純平さんが急に立ち上がって、「笑え!楽しもうぜ!」と言ったんですよ。試合中に「笑え」なんて言う人はいないので、「この人、何を言ってるんだ?」と思ったんですけど、それで重い空気が和んで、僕もすごく安心しました。いい声かけという点では、僕は菅野選手の声がすごく好きです。
―先ほど「自信がない人間」とおっしゃっていたのですが、ハンドボールを始めたことによって変わっていったのですか。
吉野:そうですね。子どもの頃は引っ込み思案で、ハンドボールをやっていなかったらどうなっていたんだろうと思うくらい。公園に行っても、親の後ろに隠れて遊具で遊んでいる子を見ていて、誰もいなくなってから遊ぶ、みたいな子どもだったんです。両親は『ブランコにも乗れないし、この子は大丈夫か?』と心配していたらしいです。
―今の吉野選手からは想像できないですね。
吉野:高校の時も、あまり自分の気持ちを表に出せないタイプだったので、「殻を破れ」「どんどん気持ちを出せ」といろんな人から言われていました。
以前、当時のアンダーカテゴリーの代表監督が「冷静さと闘争心のバランスが大事」と言っていたのですが、僕は緊張しいで、冷静な方なので、試合に臨む際は闘争心を強く出すことを意識しています。ウォーミングアップの時に、あえて激しい息遣いをして、「よし、行こう」「楽しもう」と自分を奮い立たせ、闘争心を高めて試合に入ります。
「優勝しろ」と言われている気がする
―5月25日のレギュラーシーズン最終節の結果、ブレイヴキングス刈谷の1位通過が決まりました。大同フェニックス東海戦に勝利した後、2時間遅れで行われていたジークスター東京vs豊田合成で、Z東京が引き分け以上の場合1位通過が決まる状況でした。
吉野:だから大同東海戦後は、勝利の喜びを噛み締める間もなく、「ジークどうなってる?」「いま、何点差?」とみんなすぐに携帯を見て、そわそわしていました。前半が12-16で終わったので、『(1位通過は)ないな」と思いながら、山田(信也)選手の車で家まで送ってもらう間も僕はずっと配信を観ていました。家についてからもずっと観ていたんですけど、引き分けで終わった瞬間、「1位通過!」「1位通過!」ってLINEが鳴り止まなくなって、興奮しましたね。
―いい形でプレーオフに臨めますね。
吉野:僕が入団してから1位通過は初めてなので、素直に嬉しいです。
今シーズンはラースHCになって2シーズン目で、彼のハンドボールが選手に浸透しているし、仕上がりも一番いい。過去を振り返っても、今シーズンが最も強いチームだと感じています。
―昨シーズンと比べて、どんなところが進化したのでしょうか。
吉野:戦術の浸透度が格段に違いますね。ラースHCに指示されたことを遂行するだけではなく、その応用ができるようになりました。選手全員がラースHCのハンドボールを理解しているので、相手に対策をされたとしても一人ひとりの判断で変化ができるようになっています。
応用ができるからこそ、大同東海戦やその前の安芸高田わくながハンドボールクラブ戦のように、前半は相手に対策されて競った展開になっても、後半にしっかりと対応できています。
ハーフタイムに、試合に出ているメンバーで話し合ったり、ベンチやコートの外から見ていた選手からアドバイスをもらったりして、「後半はこう挑もう」と選手間でコミュニケーションを取って修正できているところも成長した点です。
―いよいよ、6月13日からプレーオフがはじまります。
吉野:1位通過をして、風がこちらに吹いているというか、「ブレイヴキングス刈谷、優勝しろ」と言われているような気がしています。
プレーオフは独特の緊張感がある中で、雰囲気にのまれたり、想定しないことが起こったりすることが必ずあります。いい準備をして、全員が絶対優勝するんだ、という固い意志を持って総力戦で挑むことが大事になってきます。一番いい状態、最高の戦力でぶつかりたいです。
―「エース」として、どのようなプレーを見せたいですか。
吉野:大きなことを言えば、ゲームを支配したいです。自分が点を取るだけではなく、チーム全体がうまく回るようにゲームをコントロールしたいです。
―最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
吉野:今シーズンは本当に長いシーズンでしたが、その間ずっと一緒に戦ってくださってありがとうございます。
「今年こそ」はもう最後にしたい。優勝して、一緒に喜びを分かち合えるように、僕たちも全力で挑みますので、最後まで応援よろしくお願いします。
取材・文/山田智子
2025/06/11