FOCUS ON BRAVEKINGS

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【FOCUS ON BRAVEKINGS #9】「今回も、しっかり負けた」2024-25シーズンの振り返りと来シーズンへの決意

リーグH初年度のブレイヴキングス刈谷は、レギュラーシーズン1位でプレーオフに進出。

6月13-15日に行われたプレーオフでは、セミファイナルで大同フェニックス東海に40-31で快勝するも、決勝では宿敵・豊田合成ブルーファルコン名古屋に5年連続で苦杯を喫し、準優勝に終わりました。

 

2024-25シーズン最後の「FOCUS ON BRAVEKINGS」は、プレーオフの直後に藤本純季選手、富永聖也選手、小畠来生選手、北詰明未選手、山田信也選手の座談会を実施。プレーオフ、そして長かった2024-25シーズンを振り返り、来シーズンへの決意を語ってもらいました。

 

 

「今回も、しっかり負けた」

 

―プレーオフを終えて、今の率直な気持ちを聞かせてください。

 

藤本:僕の場合は、今シーズンで引退することもあって、プレーオフの1週間前くらいから『練習するのもあと何回だな』とカウントダウンしていたので、『やっと終わった』という気持ちでした。

優勝できなかったことについては、『またか』と悔しい思いがあります。でも、僕はもうリベンジするチャンスがないので、皆さん頑張ってください。

 

―決勝が終わった後、目に光るものがありました。どのような涙だったのでしょうか。

 

藤本:負けて悔しくて泣いたのではなく、試合が終わった直後は『ああ、終わったなあ』と淡々とした感じでした。でも、ベンチに戻ってから、なぜか突然込み上げてきました。

 

山田:これまでに泣いたことはなかったですか?

 

藤本:なかったね。引退する人を見てもらい泣きすることは少しあったかな。

 

―山田選手も試合後、号泣されていましたね。

 

山田:僕はああいう場面で泣いちゃうんで、決勝で5回負けて5回とも泣いています。ただ、今回は同じポジション(ピヴォット)の(菅野)純平さん、(岡元)竜生さんが引退することもあって。二人は僕が入団してから支えてくれた先輩で、いつも以上に思いが強かったので、ベンチに戻って二人の顔を見たら抑えきれなくなってしまいました。

 

 

―試合については、どのように振り返りますか。

 

山田:試合が終わった瞬間は、「またやっちまったな」と思いましたね。プレーオフの前に会社の方からも「さすがに5回目はないよね」と言われていたし、自分でもレギュラーシーズン1位で、準決勝の大同東海戦の試合内容も自分自身のプレーもよくて、気持ちが乗っていたので、今回は勝てるんじゃないかと思っていました。

試合が始まって、前半はいい流れで、1点差でしたけどリードして終われたので、後半ももう一度同じことをやろうと考えていました。でも、同じことをしても通用しない。相手が対策してきた中で、僕たちがそれを上回ることができませんでした。帰ってきてから、「まただね」と言われましたけど、もう一度頑張るしかないです。

今シーズンは、きついメニューもかなりありましたし、全員が悔いのないくらいに100%以上の力で取り組んできました。来シーズン優勝するためには、今シーズン以上のきつい練習が必要になるので、このオフは身体を休めるのと同時に、覚悟を決める期間になるのかなと思っています。

 

北詰:僕は、何だろう……。悔しい気持ちもあったけど、「今回も、しっかり負けたな」って感じました。まだ自分で試合をちゃんと振り返っていないので、言葉にするのは難しいです。

 

山田:試合はまだ観てないですか?

 

北詰:まだ観てない。

 

藤本:前半は良かったけどね。

 

北詰:前半は良かったけど、だんだん追いつかれて、悪い流れになった時に踏ん張れない。いつもの負けパターンでしたね。だから、踏ん張れる力をつけることが今後の課題だと考えています。

 

 

富永:僕は東京から帰ってきて、一人で試合を全部観ました。試合中は、やるべきことは頭に入っているけれど、体が動かない状態で、明未さんと一緒で「しっかり負けたな」って感じでした。あとは、豊田合成の同期との差を感じましたね。

 

山田:同期、誰?

 

富永:イッチー(市原 宗弥)とか、矢野(世人)とかですね。彼らが真ん中を守っている時に1対1を仕掛けて抜けなかったのが強烈に印象に残っていて、『勝負に負けたな』と思いました。次に対戦する時には逆の立場になれるように、まずは自分の武器を磨くことを目標にしようと今は考えています。

 

山田:来生は初めてのプレーオフ?

 

小畠:そうです。昨シーズンはメンバー外で、今回が初めてのプレーオフだったので、めちゃくちゃ緊張しました。準決勝はシュートを決めることができて良かったんですが、決勝は1秒も出られず、ただベンチで見ているだけで終わってしまいました。

 

山田:もし出ていたら、活躍する自信はあった?

 

小畠:出ていたら、たぶん1、2点は決められたかなと思います。

 

山田:おお、いいねえ。

 

 

宿敵を倒すために必要なこと

 

―豊田合成の壁を越えるためには、何が必要になると思われますか。

 

藤本:セカンドメンバーがキーになると思います。層の厚さというよりは、停滞した時に流れを変えられる選手の手数が豊田合成は多いなと感じました。

 

北詰:そうですね。

 

藤本:スキルや能力の話ではなくて、豊田合成は役割が一人一人違って、自分の仕事をちゃんとしている選手が多いという印象があります。だから、選手が変わると、ガラッと戦い方が変わる。一方で、うちは、個人というよりはチームで攻めるので、選手が替わってあまり流れが変わらないよね。

 

山田:豊田合成はほぼ半分半分くらいの感じでメンバーが変わりますからね。

 

藤本:決勝で途中から出たのは、アイク(富永)と田代、あと退場の間に僕が入ったくらいだったけど、準決勝の大同東海戦はセカンドメンバーの時間帯に加速させられたよね。大同東海戦のように、例えば、来生が入ってきたら、とにかく来生に1対1で攻めさせようとか、アイクが入ったら、アイクに打たせる形をどんどん作ろうとか。途中から出てくるメンバーの役割を増やして流れが変えられる戦い方を、シーズン通してできるようになるとチームとしてさらに一段階強くなると思います。

 

 

 

北詰:ラース(HC)の求めるハンドボールだけでは、やっぱり優勝は難しい。ラースの戦術は浸透してきているからこそ、そこにプラスアルファで選手のオリジナリティや選手同士のコンビネーションが必要になると感じました。

豊田合成とは何回も対戦していて、僕らの戦術もそれほど大きく変わっていない中で、ラースに言われていることだけをやり続けていても届かないと、もうみんなわかっていると思う。

 

藤本:シーズン終盤にラースが「戦術の殻を破っていこう」と取り組みはじめた。それが僕はすごく大事だと思っている。来シーズンは、チームの規律の中で、チャンスがあれば、殻を破って、違うプレーをすることが求められる。

例えば、決勝の立ち上がりの(吉野)樹のシュートも、練習ではやっていないけど、行けると思うから打ちに行っている。システムの続きというか、相手の想像していないプレーを、自分の判断でして、その結果に対して責任を取る選手が増えてくると、相当変わっていくと思います。

 

小畠:ベンチから見ていて思ったのは、後半になってから、豊田合成はパスをどんどん繋いでシュートまで持っていく場面が多かったけど、僕たちは単発でシュートを打って外すということがすごく増えたように感じました。

 

藤本:決勝の時のようにオフェンスが停滞すると、樹や(渡部)仁は自分がどうにかしないという使命感があるからね。さっきのセカンドチームの話にもつながるけど、今は手詰まりになった時に切れるカードが少ない。だからこそ、7人攻撃だったんだと思うんだよね。

 

山田:その通りですね。

 

藤本:だから、来シーズン1年かけてカードを作っていかなければならない。

 

山田:たしか豊田合成は、新人の荒瀬(廉)選手が後半3点を取ったよね。新人が活躍すると、相手は勢いに乗るし、フォーメーションじゃないのに突然打ってきたんですよ。

 

藤本:あれによってディフェンスのラインを崩されたと思うから、すごく影響が大きかった。

だから、僕は来生に来季がんばってもらいたいなあ。終盤、ラースに期待されていたよね。

 

富永:ラースに呼ばれていたよね。

 

小畠:「最近調子いいなあ。頑張れ」って言われました。

 

藤本:今シーズン、アイクはカードとして加えられたよね。ディフェンスでは3枚目、オフェンスでは樹が疲れたらすぐに交代して結果を出すことも多かった。アイクみたいな選手がもっと増えてくるといいと思う。

 

山田:そういう意味では、パウエル(・パチコフスキー)もすごく大きなカードですね。

 

藤本:パウエルが先に出て、仁が途中から入るとか。来シーズンはトリム(・コルペルド・ジョンセン)、アンドレ(・ゴメス)が加わるし、カードが増えることでいろいろな組み合わせができて面白くなると思います。

 

 

ディフェンスが確立され、安定感が増した

 

―2024-25シーズン全体を振り返って、チームとして、個人として成長を感じるのはどんなところでしょうか。

 

富永:前半はこれまでも課題だった波がまだありましたが、後半は安定してきたと思います。前半は悪い流れをずっと止められずに下位チームに逆転されることがありましたが、ずっと点数を取れない、ずっと守れない場面が、少しずつなくなってきました。ちょっとした差ですけど、それが結構大事で。チームとして悪い流れを止められる力が少しずつついてきたと、思いませんか?

 

藤本:これまでは、毎シーズン、どこかで取りこぼすということがあったんですけど、今シーズンはジークスター東京と豊田合成以外、あとは中盤の安芸高田わくながハンドボールクラブ戦くらい。それ以外は負けないだろうなと感じるくらいの安定感がありましたね。

 

山田:確かにそうですね。

 

富永:今シーズンの安定感をより強いものにして、上位チームにも発揮できるようになることが来シーズンは求められるのかなと考えています。

個人的には、いままでは慌ててしまっていたところで冷静にプレーできるようになって、ハンドボールが昨シーズンよりも楽しくなりました。ハンドボールと向き合うための土台が作れたのが一番かなと思っています。

 

藤本:アイクは、試合経験が増えて、その中で結果も残して、自信がついた印象があるよね。

 

山田:豊田合成には一度も勝てませんでしたが、チームとしての地力がつきました。その結果、初めてレギュラーシーズン1位になりましたし、チームとしての成長を感じています。

特にキーパーを含めたディフェンスが良かったと思います。福井永平寺ブルーサンダー戦は前半4失点に抑えることができました。下位チームに対しても4点に抑えるのはなかなか難しいことなのですが、ハマればそういうこともできます。

個人的には、ラースから1対1のタイミングについてずっと言われてきたので、今シーズンは1対1を目標に練習してきました。練習で小畠くんを相手に思いっきりディフェンスしてきたおかげで、1対1のディフェンスで相手を捕まえるタイミングをつかめたという手応えがあります。

 

藤本:ディフェンスは確立されてきたと思うよ。6-0は特にシステムがあるわけではないけど、自分たちでいろいろなことをコントロールしてプレーできる人が増えた。

 

山田:システムがあるわけではないから、崩しづらいんじゃないかと思うんです。実際に豊田合成にも、大きく崩されたとは思っていないんですよ。プレーオフの決勝でも、特に前半は相手のやることが全部わかるくらいの感じでした。オフェンスのミスから失点したり、自分たちがいつもと違うことをして崩される場面はありましたけど、基本的なディフェンスをしている時間は大きく崩されることはなかったという印象です。

 

藤本:先発メンバーができているディフェンスを、選手が変わっても同じクオリティでできるようになると、本当に崩されなくなるよね。

 

 

チーム内MVPは?

 

―今シーズンのチーム内MVPを選ぶとすると、誰になると思いますか。

 

藤本:僕は(加藤)芳規かな。

 

北詰:僕も芳規さんだと思います。

 

山田:確かに芳規さんかもしれない。後半のプレーオフに向けてチームとして士気を上げていく大事な時期に、確率よく止めてくれて、気持ちを乗らせてくれた印象があります。

 

富永:優勝していたら、芳規さんが最高殊勲選手賞だったと思う。

 

藤本:あとは山田。プレータイムがめちゃくちゃ長かったよね。

 

山田:そうですね。シーズン後半の試合は 40~50分は出ていました。

 

藤本:あのポジションで40分間続けるのはすごいよね。オフェンスではポストの位置で身体をはって、ディフェンスでも真ん中を崩されちゃうと全体が崩れちゃうから。山田は頑張ったんじゃないかなって思います。

 

山田:田代が途中で入ってきてくれて助かりました。田代は今シーズン、終始緊張していましたけど(笑)。

 

藤本:来シーズンはもっとチームに馴染むと思うから、そうなるとチーム層に厚みが出てくるよね。

 

富永:僕は、よっぴー(加藤)か(吉野)樹さんだな。

 

山田:樹さんってアベレージが高いから、あまり目立たないんですよね。あの成績の選手が急に現れたら、普通はベストセブンに選ばれると思う。

 

藤本:今シーズンは得点も取っている(リーグ3位)し、確率もいい(リーグ2位)んだけど、それが普通になっちゃっているから、個人賞に選ばれないんだろうね。

 

山田:だから、僕はディフェンスだと芳規さんで、オフェンスだと樹さんかな。

 

富永:杉さん(杉岡)もシュートを外さないよね。

 

藤本:9割はすごすぎるよね。

 

北詰:歴代最高シュート率でしょ。

 

富永:サイドの角度のない中で、打ったらほぼ入るのはこわいですよ。

 

「来シーズンは豊田合成からすべてを奪い取る」

 

―来シーズン、キーマンになりそうな選手は?

 

山田:僕は富永くんだと思います。日々地道に頑張っている姿を見ているので、そろそろ爆発するんじゃないかと期待しています。今シーズンもチームが苦しい時に気持ちいいシュートを1本決めてくれたり、ノータイムフリースロー決めたりしてチームを盛り上げてくれたし、ディフェンスでも真ん中や2枚目を守ってチームに貢献してくれているので、来シーズンはきっとそれ以上のプレーをしてくれるはず。チームにとってはキーマンだと思いますし、彼にとっては勝負の年になるんじゃないかと思います。

 

 

小畠:僕は信也さんですね。いつもチームを鼓舞してくれるし、扇の要としてチームを縁の下で支える存在だと思うので。

 

北詰:僕は松下くんに頑張ってほしいです。同じポジションですし、先輩の(玉城)慶也さんが引退してしまったので、その分、彼に頑張ってほしい。

藤本:僕は来生。さっきも話したけど、セカンドチームが充実しているチームが真に強いチームだと思うので、アイクと一緒にセカンドを引っ張っていけるくらいの存在になってほしい。来生は運動能力がめちゃくちゃ高くて、練習では一般の皆さんが知らないようなシュートを打っているんですよ。

 

山田:試合では一回も見たことないけどね(笑)。

 

藤本:来生くらい身長が高くて(188cm)、フェイントをするプレーヤーが他にはいないし、山田をあんなに抜ける選手は見たことがない。爆発的に変わるとしたら、アイクや来生だと思う。

 

山田:確かに、僕とか明未さんがここからバーンと垂直に伸びる可能性はそれほど大きくはないと思うけど、アイクや来生にはその可能性があるよね。

 

藤本:あとは田代。(櫻井)睦哉とかはディフェンスも頑張っているし、出場時間も長いので、ある程度見えてきているから、アイク、来生、田代、松下の成長が来シーズンのプレーオフの結果を決めるんじゃないかと僕は期待しています。若い選手がどんどんナショナルチームに行って経験を積んでくると、さらに強くなると思うし、順当に行けばかなりの選手が日本代表に選ばれる可能性があるとも思っています。

 

 

―最後に1シーズン一緒に戦ってくださったファンの方へのメッセージをお願いします。

 

小畠:ファンの皆さまの応援があったからこそ、苦しい試合も勝つことができました。試合が終わった後に、「お疲れ様」と声をかけていただいたことが励みになり、また頑張ろうと力になっています。感謝しています。

 

山田:1年間ありがとうございました。僕たちのホームゲームは、刈谷市体育館は1000人以上、最後のウィングアリーナ刈谷は2000人を超える多くのファンの皆さんに来ていただいて、ホームゲームじゃなきゃ味わえない雰囲気をファンの皆さまや運営に関わる皆さまに作っていただき、気持ちよくプレーができるのは幸せなことだと感じています。それに対して恩返しができるのは優勝すること。もう5年も待たせてしまっているので、来シーズンこそは、優勝して嬉し泣きをしている姿を見せたい。もう1年我慢して、会場に来て応援してくださるとうれしいです。

 

富永:シーズンを通して、熱い応援をありがとうございました。ブレイヴキングス刈谷のファンは熱い方が多いので、僕らもその熱量に負けないように頑張っていきたいと思っています。来シーズンは、豊田合成から全てを奪い取りたい。それしか考えていないので、引き続き熱い応援よろしくお願いします。

 

北詰:1年間ありがとうございました。今年のホームゲームはこれまで以上に熱気がすごくて、そういう雰囲気の中で試合ができるのは幸せなことだなとあらためて感じたシーズンでした。今シーズンに懸けていたので、優勝できなかったのは残念でしたけど、僕たちにはまだもう一度頑張れる力があると思っています。また来シーズン、頼もしい後輩たちと一緒に頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

 

藤本:今シーズン、そして14年間、このチームでプレーできたことを本当に感謝しています。最初の頃は社員の方が多かったのですが、最近はユニフォームを着てタオルを掲げてくださるファンが増えてきて、素晴らしい雰囲気の中でプレーできることが本当に楽しかったです。ブレイヴキングス刈谷はもっともっとファンを増やすことのできる魅力あるチームだと思っています。3000人くらいのファンが来てくれれば、選手ももっと頑張れるはずなので、さらにたくさんの方に会場に来ていただければと思っています。来年こそは優勝してくれると信じています。

 

2024-25シーズンは終了しましたが、ブレイヴキングス刈谷の道はまだまだ続きます。

今後どんな物語が紡がれるのか、引き続きブレイヴキングス刈谷にご注目いただければと思います。

2025/06/30

【FOCUS ON BRAVEKINGS #8】アシスト重視で自己最高へ。史上最年少1000得点達成の「エース」が優勝へ導く

いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございます。

ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

 

 

174得点、シュート率69.4%、そして史上最年少での通算1000得点達成———

ラース流ハンドボールの浸透とともに、キャリアハイづくしのシーズンを送ったエース・吉野樹選手。初の1位通過で迎えるプレーオフへの思いを聞いた。

 

 

得点&シュート率ともにキャリアハイ更新の充実のシーズン

 

―今シーズンの吉野選手は、174得点(リーグ3 位)、シュート率0.694(リーグ2位)といずれもキャリアハイでした。

 

吉野:バックプレーヤーのシュート率は6割でも高いと言われているので、約7割という数字は自分でもびっくりしています。要因としては、プレーの面とプレー以外の面と両面あると思っています。

 

―まずはプレー面での変化を教えてください。

 

吉野:今シーズンは、アシストをすることに取り組んできました。これまでは自分にマークがついていても無理にシュートを打つことがありましたが、アシストを意識することでそうした場面が減りました。

周りを生かすことによって、相手のディフェンスが他の選手に寄るので、ズレができて、自分は広いスペースを使って攻められます。確率の高いところで勝負ができていることが、シュート率の良さにもつながったのだと思います。

自分としてはアシストを意識していたので、今シーズンはあまり得点をとっているイメージがなかったんですよ。パスを出しているんだけど、最終的にボールが自分に返ってきて、気がつけば点を取っていたみたいな感覚です。

 

―なるほど。チーム全員として確率のよいシュートを選択できているということですね。シュート率ランキングは杉岡尚樹選手が1位、吉野選手が2位と、1位2位を独占したのはそうした背景もあったのですね。

アシストに取り組んだのは、ラースHCのアドバイスがあってのことですか。

 

吉野:そうです。ラースHCからは常々「50%以下の確率でシュートを打つな」と言われているので、シュートとパスの判断力がついてきています。確率が高いところで勝負する、スペースの広いところで勝負するのが前提にあるので、自分もそのようなメンタルになっています。ラースに染まっていますね、僕(笑)。

 

 

―プレー以外の面での要因にはどんなことがありますか。

 

吉野:シーズンを通して、よいコンディションを保てていることですね。今シーズンは「ハードトレーニング・ハードリカバリー」をテーマに、ハードなトレーニングをして、それと同じくらいしっかりとストレッチやケアに時間をかけてきました。トレーニング前に1時間かけて身体をほぐし、2〜3時間トレーニングをして、終わった後はまた1時間以上かけて身体を元通りにする。最近はそれに加えて、夜にヨガをしています。

 

―ヨガをはじめるきっかけが何かあったのですか。

 

吉野:僕は今年31歳になるんですけど、年々身体が硬くなっていくし、疲れも取れにくくなってきて……。病院の方に相談したら、「ヨガを始めると全身が柔らかくなるよ」とおすすめされました。すぐにYouTubeで調べて試してみたら、本当に変わったんですよ。

普段からストレッチはしていたんですけど、それだと決まった部分しか伸びていない。でもヨガをすることによって、『意外とこんなところが硬かった』『ここが使えてなかった』と気づくことができる。全身が整うので、今シーズンは大きなケガもなく、ほぼ全試合に出場することができました。家でも遠征先でもできるし、ヨガ、すごくいいですよ。おすすめです。

 

―チームとして確率のよいプレーができていることとコンディションのよさなど、様々な要因が重なってよい結果が出ているのですね。

3月29日に行われた福井永平寺ブルーサンダー戦では、史上最年少で通算1000得点を達成しました。

 

吉野:1年目から毎シーズン「1試合6得点、シュート率60%」という目標をずっと掲げて、こつこつと積み重ねてきた結果だと思います。チームメイトのおかげもあって点が取れているので、記録についてはあまり意識していなかったのですが、福井永平寺戦だけはすごく意識しましたね。ホームのファンの皆さんの前で達成したかったし、セレモニーも用意しているからと言われていたので(笑)。

 

―パープルユニフォーム着用した「刈谷シリーズ」の日でしたね。

 

吉野:あの試合は今シーズンの中でも一番印象に残っています。試合に勝ってプレーオフ進出が決定したことと僕の1000得点達成と……。

 

―加藤芳規選手がフィールドシュート阻止通算900本達成と、渡部仁選手の通算900ゴール達成セレモニーもありました。

 

吉野:仁さんが、「セレモニーが霞んだ」と言っていましたね(笑)。お祝い事が重なったので、すごく記憶に残っています。

 

 

コートにいるだけで安心感を与えられるのが「エース」

 

―吉野選手はブレイヴキングス刈谷でも日本代表でも「エース」と呼ばれていますが、ご自身が「エース」だと自覚を持ったのはいつ頃ですか。

 

吉野:僕はあまり自信がない人間なので、自分ではそんなに「エースだ」とは意識してきませんでした。入団2年目くらいから、当時現役だった門山(哲也/現チームディレクター)さんから「お前がエースだ」「お前がやらなくて、誰がやるんだ」とずっと背中を押し続けてもらったことが大きかったですね。チームメイトから必要とされることで徐々に自覚が芽生え、さらに2年目に日本代表に選ばれて、国際試合を経験したことで、「自分がやらなきゃ」と思うようになりました。

だから、1年目のプレーオフはすごく緊張したのですが、2年目のプレーオフの時には「チームを勝たせたい」とメンタリティが変わっていました。実際に優勝することができて、MVP獲れたので自信になりました。

 

 

―「エース」として、チームにとってどのような存在でありたいと考えていますか。

 

吉野:得点を取るポジションなので、まずはプレーで引っ張っていきたいという気持ちがあります。加えて、「吉野がコートに立っていたら大丈夫だ」と安心感を与えられる存在でありたい。現役時代の門山さんがまさにそうでした。熱い言葉、溢れ出るパッション。その姿を見ているだけで「俺もやらなきゃ」と周りの選手も熱くなってくる。僕とは違うタイプですけど、こういう人がエースなんだと思いましたね。

 

―熱い言葉というお話がありましたが、先日菅野純平選手にインタビューした際に、吉野選手に「純平さんならいけますよ」という声を掛けられて、スイッチが入ったという話を聞きました。言葉でもチームを引っ張ることも意識していますか。

 

吉野:常にポジティブな声かけをすることを大事にしています。純平さんへの言葉はそのひとつだったのかもしれないです。

でも、純平さんこそ、いつもポジティブで熱い声を掛けてくれるんですよ。4年前、2021年のプレーオフの決勝戦、仁さんが前半だけで4点くらい決めてリードしていたのですが、その後ケガをしてしまって。後半になって、豊田合成(ブルーファルコン名古屋)にどんどん流れを持っていかれた時に、ベンチにいた純平さんが急に立ち上がって、「笑え!楽しもうぜ!」と言ったんですよ。試合中に「笑え」なんて言う人はいないので、「この人、何を言ってるんだ?」と思ったんですけど、それで重い空気が和んで、僕もすごく安心しました。いい声かけという点では、僕は菅野選手の声がすごく好きです。

 

 

―先ほど「自信がない人間」とおっしゃっていたのですが、ハンドボールを始めたことによって変わっていったのですか。

 

吉野:そうですね。子どもの頃は引っ込み思案で、ハンドボールをやっていなかったらどうなっていたんだろうと思うくらい。公園に行っても、親の後ろに隠れて遊具で遊んでいる子を見ていて、誰もいなくなってから遊ぶ、みたいな子どもだったんです。両親は『ブランコにも乗れないし、この子は大丈夫か?』と心配していたらしいです。

 

―今の吉野選手からは想像できないですね。

 

吉野:高校の時も、あまり自分の気持ちを表に出せないタイプだったので、「殻を破れ」「どんどん気持ちを出せ」といろんな人から言われていました。

以前、当時のアンダーカテゴリーの代表監督が「冷静さと闘争心のバランスが大事」と言っていたのですが、僕は緊張しいで、冷静な方なので、試合に臨む際は闘争心を強く出すことを意識しています。ウォーミングアップの時に、あえて激しい息遣いをして、「よし、行こう」「楽しもう」と自分を奮い立たせ、闘争心を高めて試合に入ります。

 

「優勝しろ」と言われている気がする

 

―5月25日のレギュラーシーズン最終節の結果、ブレイヴキングス刈谷の1位通過が決まりました。大同フェニックス東海戦に勝利した後、2時間遅れで行われていたジークスター東京vs豊田合成で、Z東京が引き分け以上の場合1位通過が決まる状況でした。

 

吉野:だから大同東海戦後は、勝利の喜びを噛み締める間もなく、「ジークどうなってる?」「いま、何点差?」とみんなすぐに携帯を見て、そわそわしていました。前半が12-16で終わったので、『(1位通過は)ないな」と思いながら、山田(信也)選手の車で家まで送ってもらう間も僕はずっと配信を観ていました。家についてからもずっと観ていたんですけど、引き分けで終わった瞬間、「1位通過!」「1位通過!」ってLINEが鳴り止まなくなって、興奮しましたね。

 

―いい形でプレーオフに臨めますね。

 

吉野:僕が入団してから1位通過は初めてなので、素直に嬉しいです。

今シーズンはラースHCになって2シーズン目で、彼のハンドボールが選手に浸透しているし、仕上がりも一番いい。過去を振り返っても、今シーズンが最も強いチームだと感じています。

 

―昨シーズンと比べて、どんなところが進化したのでしょうか。

 

吉野:戦術の浸透度が格段に違いますね。ラースHCに指示されたことを遂行するだけではなく、その応用ができるようになりました。選手全員がラースHCのハンドボールを理解しているので、相手に対策をされたとしても一人ひとりの判断で変化ができるようになっています。

応用ができるからこそ、大同東海戦やその前の安芸高田わくながハンドボールクラブ戦のように、前半は相手に対策されて競った展開になっても、後半にしっかりと対応できています。

ハーフタイムに、試合に出ているメンバーで話し合ったり、ベンチやコートの外から見ていた選手からアドバイスをもらったりして、「後半はこう挑もう」と選手間でコミュニケーションを取って修正できているところも成長した点です。

 

 

―いよいよ、6月13日からプレーオフがはじまります。

 

吉野:1位通過をして、風がこちらに吹いているというか、「ブレイヴキングス刈谷、優勝しろ」と言われているような気がしています。

プレーオフは独特の緊張感がある中で、雰囲気にのまれたり、想定しないことが起こったりすることが必ずあります。いい準備をして、全員が絶対優勝するんだ、という固い意志を持って総力戦で挑むことが大事になってきます。一番いい状態、最高の戦力でぶつかりたいです。

 

―「エース」として、どのようなプレーを見せたいですか。

 

吉野:大きなことを言えば、ゲームを支配したいです。自分が点を取るだけではなく、チーム全体がうまく回るようにゲームをコントロールしたいです。

 

―最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

 

吉野:今シーズンは本当に長いシーズンでしたが、その間ずっと一緒に戦ってくださってありがとうございます。

「今年こそ」はもう最後にしたい。優勝して、一緒に喜びを分かち合えるように、僕たちも全力で挑みますので、最後まで応援よろしくお願いします。

 

取材・文/山田智子

2025/06/11