
(小畠来生㊧と岡本翔馬㊨)
チーム最年少の#10RW岡本翔馬選手と、3シーズン目の#14LB小畠来生選手。リーグH屈指の選手層を誇るブレイヴキングス刈谷にあって、出場機会をつかもうと努力する若手2人の素顔と覚悟に迫る。
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―まずは、お互いの“他己紹介”をお願いします
小畠:まずは僕が岡本翔馬選手を紹介しますね。本人と会うより前に、プロフィールを見たんですけど、趣味に「御朱印集め」と書いてあって。『どんな人が来るんだろう?』って楽しみにしていたら、関西人のイメージそのまんまの人が来た。ツッコミとかも関西人で面白いです。
御朱印って、23歳の趣味じゃないでしょ。何で集めてるの?
岡本:何でかと言われたら難しいですけど……。学生の頃に両親と祖母とお寺めぐりをしたんですけど、その時にここに行ったぞという証明というか、スタンプラリー的な感覚で始めました。一人の時間も好きなので、その後もお寺を巡って、考え事をして、お祈りして、気持ちを整えてスッキリするみたいなことをしています。
当時の僕はブレイヴキングス刈谷に入りたいと思っていたので、一つ一つの神社仏閣で『ブレイヴキングスに入れますように』とお願いして、ここに入ることができました。
―小畠選手の趣味はなんですか?
小畠:趣味という趣味はないんですけど、観葉植物が部屋に7個あって、今はそれを育てるのが癒しですね。部屋の空気が綺麗になるし。
岡本:観葉植物で、空気はきれいにならないでしょ?
小畠:酸素をいっぱい出すから…。
岡本:出ない、出ない。
小畠:これです! こういう関西のツッコミが多いです。
岡本:次は僕から小畠来生選手を紹介しますね。初めて知ったのは高校の頃。小畠さんは氷見高校(富山)、僕は洛北高校(京都)で1歳違いなんですけど、小畠さんは当時から身体も大きくて、注目されている選手でした。
攻撃面ではシュートが速い、フェイントのキレがある。ディフェンスも堅くて、高さもあって、ジャンプ力がある。とにかくすべてにおいて平均値が高い選手という印象です。
でも、プライベートでは、よくご飯にも一緒に行くんですけど、常にふざけています。真面目な瞬間がほとんどないです。
小畠:そんなことはない!
岡本:そんなことないことはないです。でも、「これだ!」と思ったら、結構真っ直ぐなタイプ。例えば、コーヒーマシンとか。「これがいいな!」と思ったらすぐに買うんですけど、時間が経つと忘れてしまって、今は全く使っていない。だから、観葉植物もそのうち終わると僕は思ってます。
小畠:形から入ってしまうタイプなんですよ。コーヒーミルを買った時も、自動ではなくて、手で回したいなと思って。寮の部屋で一人でミルを回して、コーヒーを淹れてたんですけど、10回くらいで終わってしまいました。他にも、いい音で音楽を聴きたいなと思って買ったスピーカーは、家の奥で眠っています。こういうことが多いんですよ。でも観葉植物は枯らしません。

―岡本選手は小畠選手を高校の時から知っていたということですが、小畠選手が岡本選手を知ったのはいつですか
小畠:僕は大学の時に知りました。僕は明治大学で、岡本くんは名城大学なんですが、僕が3年生の時のインカレ(全日本学生ハンドボール選手権大会)で対戦してるんですよ。対戦する前の試合(2回戦の国士舘大学戦)を観戦したんですけど、岡本くんが最後にすごいロングシュートを決めて逆転勝ちして、「あの選手、すごい!」って、その時に初めて知りました。
岡本:本当にそこで知ったの? 入団するまで知られていないと思ってました。
小畠:さすがにそれはないよ。
岡本:あの試合は、ウイングをやってたよね?
小畠:僕はあの年のインカレはほとんど出てなかったけど、名城大戦はちょっとだけウイングで出たかもしれない。
岡本:僕的には、小畠さんはバックで出ると思っていたんですけど、明治大学の層の厚さというか、この選手がウイングやるんだって驚いた。
小畠:練習でも1回もやったことがない状態で、監督に突然「お前、行け」って言われて。
岡本:あの時の明治大学はスター選手が多かった。清水裕翔選手(現アルバモス大阪)、石田知輝選手(前トヨタ自動車東日本レガロッソ宮城)、可児大輝選手(現大同フェニックス東海)とか、バックもウイングも身体が大きくて、有名な選手ばかりだった。その中で小畠さんがウイングで出てきたんですよ。僕は1枚目(サイドのディフェンス)だったんですけど、「大きい選手が走ってきた!」ってびっくりでした。
でも、勝ちましたけど。
小畠:負けました。
―2022年のインカレで、名城大学は3回戦の明治大学戦に40-33で勝利して、21年ぶりに3位入賞を果たしていますね


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―先ほど岡本選手が大学の頃からブレイヴキングス刈谷に入りたかったとおっしゃっていましたが、ブレイヴキングス刈谷に加入した経緯を教えてください
岡本:大学に入学した時から、リーグHのトップチーム、プレーオフに出るようなチームに行きたいと考えていました。でも高校時代は無名の選手だったので、何か一つ磨かないと難しいだろうと大学時代の監督とも話をして、大学4年間かけてリーグHの選手になれるような練習をしてきました。
―リーグHの強豪チームの中で、なぜブレイヴキングス刈谷だったのですか
岡本:僕はブレイヴキングスというチームが好きだったんです。何試合か観にいったんですけど、ブレイヴキングスって「漢」(おとこ)って感じのチームじゃないですか。熱があるというか、ハンドボールに対して真っ直ぐな人が多い。どんなに力の差があるチームでも本気で倒しに行く、そういう姿が好きなんです。
だから、(チームディレクターの)門山(哲也)さんにも「ブレイヴキングスに入れないのなら、僕はハンドボールをやめます」と話しました。
小畠:就活はしなかったの?
岡本:就活は一切していない。スーツもトヨタ車体の面接のために買いました。
小畠:僕も一緒だ。
岡本:だから、ブレイヴキングスか、フリーターかでした。
―きっとその強い覚悟が、門山さんにも、御朱印の神様・仏様にも届いたんですね。小畠さんはいかがですか?
小畠:僕はありがたいことにいくつかのチームに声をかけていただいて、いろいろなチームの練習に参加させていただきました。明治大学の監督から、「一番厳しい環境に自分を置きにいったほうがいい」と言われて、「確かにそうだな」と思って。練習の雰囲気や監督、コーチの指導法を見て、自分が一番成長できるところはどこだろうと考えて、ブレイヴキングス刈谷に決めました。
―実際に加入していかがでしたか
岡本:思っていた以上にハードです。練習から熱が入っていて。
小畠:負けず嫌いな人が多すぎて、練習で「そこまでやるか!」みたいな。
岡本:攻撃する側はねじ伏せたい、守る側はそれを止めないといけない。お互いの気持ちがぶつかり合って、練習から取っ組み合いみたいになることもあります。
本当に、漢です。最初に練習に参加した時はびっくりしました。
小畠:僕も入った時に「練習でここまでやるか」みたいなディフェンスばかりで、自分もガツガツやらないとと思いました。ここまでハードにやるのはブレイヴキングスだけですね。
岡本:他のチームの人と話しても、練習からここまでやってるチームを聞いたことがない。
僕は最初はバックプレーヤーとして入ろうと思っていたので、ウイングに転向してよかったなと思っています(笑)。
小畠:一番大変なのはポストプレーヤー。ひどい時だと3日で服が破れます。引っ張られすぎて、すぐに服がだるんだるんになるんですよ。
岡本:だから、練習よりも試合のほうが楽です。


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―そうした厳しい環境の中で過ごして、自分自身のどんなところに成長を感じていますか
小畠:僕は入ってきた時は今以上にひょろひょろだったんですけど、ウェイトトレーニングを頑張ってきて、少しずつフィジカルがついてきたなと自分でも感じています。
岡本:僕は小畠さんとは逆で、入ってきた時が一番体重が重くて。ウイングプレーヤーとしては太りすぎていたので、ウイングとしての速さと高さを得られるように体重を落としました。あとは杉岡(尚樹)さんにシュートでの冷静さを教えてもらいましたね。「熱くなったら負けだ」といつも言われています。
小畠:杉さん、そういうこと言うんだね。
岡本:バックプレーヤーなら熱くなって強引にシュートに行くこともありだと思うんですけど、ウイングは最後にシュートを託される立場。大体の場合は、キーパーと1対1の状況になるので、冷静にじっくり観て打つことが大事なんです。
でも僕は大学までバックプレーヤーだったので、バックプレーヤーの思考で、勢いで行ってしまいがちでした。だから杉岡さんから「ウイングでバックのシュートを打つな。ウイングでミドルシュートを打っているのが今のお前だ」とよく言われましたね。
―杉岡さんにお話を聞いた時に、練習後にウイングの選手でシュート対決をしていて、一度も岡本選手と櫻井睦哉選手に負けたことがないとおっしゃっていました
岡本:杉岡塾ですね。杉岡さんのあのインタビューの直後くらいに初めて櫻井さんと僕が勝ちました。その後も、2、3回勝っています。
―若手も負けていないということは、ぜひこの記事でお伝えしないといけないですね
岡本:はい。「成長してるんだぞ。僕はもうウイングだぞ、バックじゃないぞ」とお伝えしたいです。
―杉岡選手もそうですけど、ブレイヴキングス刈谷は非常に層が厚いチーム。それゆえに、プレータイムが多く得られないことに対して、どのように気持ちのコントロールをしていますか
岡本:大学時代は試合に出ていたのに、ブレイヴキングスに来てから出られなくなったことについては、ショックというより、「こんなすごい選手もいるんだ」と刺激を受けている感じですね。
だから入団1年目はハンドボールを始めてから一番練習しました。午前中はウェイトトレーニングをして、チーム練習が終わった後は哲さん(門山チームディレクター)と個人レッスンをして。一日中練習をしましたね。
小畠:今シーズンはアンドレ(・ゴメス)選手が入ってきて、プレータイムが減ってしまったんですけど、練習や試合でのトリム(・コルペルド・ジョンセン)選手やアンドレ選手の良いところを盗めるように観察して、自分の動きに照らし合わせながら、再現性を持ってプレーをするようにしています。
―2人から学んだことを、何かひとつ教えてください
小畠:ゴメス選手は身体が強いんですけど、それでもディフェンスに当たられる前にシュートを打つ、自分の間合いを持っています。そのためには周りを見る必要があるので、ボールをもらう前にすごく首を振っているんですよ。そういう部分を真似しています。
吉野(樹)選手もそうです。すごく周りを見て、すごく考えてプレーをしている。僕は感覚的にプレーをしてしまうことがあるので、先ほどの杉岡選手の話にも通じますが、冷静に、落ち着いて周りを見てプレーしようと心がけています。
岡本:ブレイヴキングス刈谷は、間違いなく日本で一番左利きの選手層が厚いチーム。それは入ってくる前からわかっていたことです。櫻井さん、(渡部)仁さん、高智(海吏)さんと日本代表経験者がいて、そこにさらにパウエル(・パチコフスキー)が入ってきた。彼らからポジションを奪うというのは簡単じゃない。試合に出られないからといって沈んでいても、未来は明るくならない。
足りないところがあるから試合に出られないのもわかっているんですけど、一方で「俺を出せ! 俺の方がやれるぞ」という自信も持っています。親にも「あんたの自信はどこから出てくるの?」と言われます(笑)。こんな感じでオラついているので、チームメイトからは「オラ本」と呼ばれています。
ートップアスリートには必要なメンタルだと思います
岡本:自信の裏付けになっているのは、大学時代に誰よりも練習した自信があるからです。夕方の5時から筋トレをして、夜8時から11時までチーム練習。11時から監督と1対1で自主練をして、24時からもう一回筋トレをする。この生活を4年間続けてきたので。

―今シーズン、後半戦に向けて意気込みをお願いします
岡本:僕はチームで一番若いんですけど、若いからこそ、チームを勢いづけられるプレーをしたい。
チーム内での僕の武器はスピードです。特に球速については、リーグHの中でも僕より球が速い選手は見たことがないので、キーパーが反応する前にぶち抜けるクイックシュートを活かしてダイナミックなプレーをしたい。バックプレーヤーっぽいウイングプレーヤーを目指したいです。
小畠:今シーズンは出場時間は短いかもしれませんが、その間にしっかりと身体づくりなどをしていきたいと考えています。試合に出た時は印象に残るようなシュートを打つので、ぜひ注目してほしい。特にフェイントをするのが好きなので、フェイントしてのシュートやフェイントからの味方を生かすパスに注目して観てもらえたらうれしいです。
2人の活躍に、ぜひ注目してください!
2025/12/26
