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ブレイヴキングス刈谷に関わる「人」に焦点を当て、インタビューやコラムで紹介していく「FOCUS ON BRAVEKINGS」を2025-26シーズンも掲載します。今回は6年ぶりにキャプテンに復帰した#20渡部仁選手(35)のインタビューです。
(ブレッキンのイラストが入ったキャプテンマークを巻いて)
―2025-26シーズンが開幕しました。今シーズン、渡部選手はキャプテンを任されました
渡部:昨シーズンの1月か2月の試合のウォーミングアップ中に、ラース(・ウェルダー・ヘッドコーチ)から「来シーズンはキャプテンをお願いしたい。やってくれるか?」と聞かれました。その時は試合の直前だったこともあって、『僕に発破をかけているのかな』くらいに捉えて、「やります」と返したんですけど、プレーオフが終わった日に「来シーズンは頼むな」と言われて、「あれは本気だったんだ」と。
―キャプテンを務めるのは6年ぶりですね。7年前に就任して、2シーズン務めました
渡部:7年前に人生で初のキャプテンを任された時は、練習の取り組む姿勢などプレー以外の面を評価されて「そのままでいいからキャプテンをやってほしい」という感じでした。年齢的にも28歳で中堅でしたし、門山(哲也/現チームディレクター)さんも現役で、年上の選手が何人もいたので、キャプテンという肩書きが付いていただけで特別なことは求められませんでした。
今回、ラースからは「チームのスイッチを入れる役割をしてほしい。あなたにはそれができる。チームを引っ張ってほしい」と言われています。「スイッチを入れる」という具体的な役割を期待されているので、6年前よりもキャプテンという役割の責任の重さを感じています。
(昨年のパリ五輪日本代表でも主将を務めた)
―「スイッチを入れる」ために、キャプテンになってから始めたこと、意識していることはありますか?
渡部:6年前と比べると、練習中もそれ以外でも、チーム全体に向けて発言することや、いろいろな選手とコミュニケーションを取ることを意識しています。というのも、この6年間で「言葉の持つエネルギー」を実感してきたからです。僕自身、このチームでも日本代表でも様々な経験をしてきたので、自信を持って発言できるようになりましたし、経験があることが僕の言葉に説得力を与えてくれているとも思っています。
―「言葉の持つエネルギー」はどんな時に感じられたのですか
渡部:キャプテンをしていた6年前(2018-19シーズン)、チームが初めて優勝することが出来ました。僕が何かをしたというよりは、チームの状況に危機感を持っていたベテランの選手が積極的に発言をしてくれて、全員の意識が変わったことが大きかったと感じました。ベテランの声かけが優勝という良い結果につながったことは、言葉の持つ力を感じた1つのきっかけです。
僕が最も言葉の力を感じたのは、東京オリンピックの時。日本代表のキャプテンだった土井レミイ杏利選手が必ず試合前のエンジンを組む時間に2〜3分のスピーチをするのですね。そこで毎回グッとくる言葉をかけて、チームの士気が上がる。僕と彼は同級生で、遠征先でも同じ部屋だったんですけど、彼は試合の前日の夜、何を言おうかと考えていました。
僕の場合はスピーチと言えるものではないですが、ひと言ふた言、チームに火がつくような声かけをしようと意識しています。
―様々な選手を見てきた中で、理想のキャプテン像はありますか
渡部:言葉だけではなく、苦しい時間に点を取ったり、流れを変えたりとコートの中でしっかりと結果を残してチームを助けられるキャプテンはかっこいいなと思いますね。
だから、9月13日の豊田合成ブルーファルコン名古屋戦(●29-39)では、言葉でもプレーでもチームを助けられなかったとキャプテンとしての責任を痛感しています。
(10点差で敗北した9/13豊田合成戦はチーム最多タイ6得点)
―今シーズンは開幕からジークスター東京(昨シーズン3位)、豊田合成ブルーファルコン名古屋(同1位)と昨シーズンの上位勢との対戦が続きました
渡部:リーグが始まる前は、開幕から連勝して「今年は違うぞ」というところを見せたいと思っていました。開幕のジークスター戦で、ある程度手応えを感じていたので、第2節の豊田合成戦はプレシーズンマッチ(●30-33)とは違う戦いができると考えていたのですが、その自信を折られましたね。
なので、ダメージは非常に大きかったです。負けたことも悔しいですし、試合が終わってバスで帰る時に、SNSで「今年のリーグHは1強でつまらなくなりそう」というような投稿を見て、負けた悔しさとファンの人を失望させてしまったこととのダブルでのダメージがありました。
その後、映像を見て、全員で課題を共有したので、今は高い授業料だったとポジティブに捉えています。日本選手権、その後2月にジークスター、豊田合成と同じ順番でリーグ戦があるので、そこでリベンジをして「あの試合はなんだったんだ?」と言っていただけるように、ここから這い上がっていきたいです。
(豊田合成戦の敗北を「ダメージは非常に大きかった」と吐露)
―現時点でチームの課題をどんなところに感じていますか
渡部:今シーズンはアンドレ・ゴメスとトリム・コルペルド・ジョンセンという個人の能力が非常に高い外国人選手が2人入ってきたのですが、連携やコミュニケーションの部分がまだ100%ではありません。
個の力で打開できるレベルには限界があるので、チームとしての共通理解を高めていくことが必須です。チームとして戦うことで、2人もより持ち味を発揮できると思いますし、周りの選手も良いパフォーマンスができると考えています。
―新加入の2人はパスも非常に上手ですよね
渡部:上手ですね。ディフェンスに身体を抑え込まれていても、ボールを持つ手は生きていて、どこからでもパスが出せる。ヨーロッパの選手はそれが標準装備されているというか、オフのドイツ遠征の時にも相手チームの選手が同じようなプレーをしていました。
彼らのボールを出す技術を生かすためにも、今シーズンはコミュニケーションがチームにとっての大事なキーワードになると思います。豊田合成に負けた後、ラースも哲さん(門山TD)もコミュニケーションの部分を強調していました。
言葉の壁があるので難しい面もありますが、まずは外国人3人が自由に発言できる環境を作りたいです。3人のニーズを聞いて、それに日本人が応えて、より良いチームを作り上げていく。それができたら、次は僕たちが要求をする。ネームバリューのある選手に対して「自分なんかが要求するなんて」と遠慮する若手がいるかもしれないですけど、お互いに言い合えるようにならなければ強いチームにはなれません。キャプテンとしてそういう環境を作りたいと考えています。
(#30トリムとベンチで喜ぶ渡部)
―昨シーズンをもってベテラン4選手(藤本純季、岡元竜生、菅野純平、玉城慶也)が引退し、チームが若返ったことで、自分の考えを言うことを遠慮してしまう傾向は昨シーズン以上にあるかもしれませんね
渡部:ハーフタイムに選手だけで話す時間が5分くらいあるのですが、昨シーズンまではそこで藤本さんを筆頭にベテラン選手が「ここは良かったから続けよう」とか「ここはうまくいかなかったから、こう修正しよう」とすごく的確なことを言ってくれていたんです。チームを俯瞰で見てくれる存在のありがたみを、いま痛感しているところです
今シーズンは、僕からみんなに話をしているんですけど、僕に対してアドバイスをしてくれる人は少ない。いまは少し一方的なコミュニケーションになっているなという感覚があります。ディフェンスについては真ん中を守っている山田(信也)やGKの3人、攻撃では北詰(明未)、吉野(樹)、サイドから全体が見えている杉岡(尚樹)が試合中に感じたことを伝えてくれるんですけど、どちらかというチーム全体としてこう変えていこうという話が中心なので。
ベテラン選手は、僕自身が気づいていない部分を指摘してくれていたので、良い相談役になってくれていました。豊田合成戦の後には藤本さんにLINEしてしっかりとアドバイスをもらいました。
―非常に興味深い話です。チームにベテラン選手がいる価値はコート外でも発揮されていたのですね。引退後もチームを気にかけてアドバイスをくださるのはありがたいことですが、ハーフタイムに選手同士で修正しあえるのがベストですよね
渡部:今シーズンは玉城(慶也)がアナリストとして帯同してくれるので、映像とか数字のデータを見せながらチームみんなや個人個人に声かけをしてくれているので、非常に助かっています。
上下関係はないと言っても、年下の選手からは「ここがダメだった」と言いづらい部分があると思うんです。でも、お互いに考えていることを言い合って、勝つための建設的な議論ができれば、僕にもプラスになるし、チームにとってもプラスになる。だから、もっと自由に意見を言い合える環境を作っていかなければと思っています。
そういう意味では、開幕前にドイツ遠征に行くことが出来たことは大きかったですね。
―長い時間一緒に海外で過ごすことは、チームの一体感を作る上で有効でしょうね
渡部:そうですね。昨年も韓国遠征に行きましたし、数年前にはポルトガルにも遠征したのですが、その時は代表選手がいなかったりしたので、チーム全員で行くのがおそらく今回が初めてだったと思うんです。10日間同じ宿舎に泊まって、同じご飯を食べるという経験はチームビルディングの面で非常にプラスになりました。
普段の遠征は1人部屋なんですけど、今回はラースが決めた部屋割りで、2人1組で共同生活をしたこともよかったですね。僕は櫻井(睦哉)と一緒だったんですけど、ハンドボールの話や日常のたわいもない話をたくさんして、彼の意外な一面を知ることが出来て楽しかったです。
(ドイツ遠征ではラースHCが部屋割りを決めたと明かす)
―意外な一面というのは?
渡部:それまでは割とおっとりとしているイメージだったんですけど、すごく几帳面なんですよ。洗濯物をきれいに畳んでくれたり、朝起きてしっかりとベッドメイキングをしてからご飯に行ったり。ぼーっとしているようで、すごく人間観察をしていて、周りの人の細かいところを見ていて、ちょっと怖いくらいでした(笑)。
他の部屋でも同じように、色々な人がチームメイトの意外な一面を知る、いい機会になったんじゃないかな。
―同じ職場でずっと一緒に練習や試合をしていても、まだまだ知らないことは多いんですね
渡部:だから、もっとコミュニケーションを取ることが大事なんですね。
―最後に、ファンの皆様へのメッセージをお願いします
渡部:シーズンが始まって数試合が終わった中で、僕たちもファンの方も望んでいる結果が出せていないのですが、目指すべき最終ゴールはリーグHプレーオフの優勝、日本選手権の優勝です。
「あの経験があったから」と最後にみんなが満足して終われるように、熱狂できる試合や空間を提供できるように、毎日積み上げています。ここからの長いシーズン、一緒になって熱く狂いましょう!
(※「熱く・狂う」はチームフィロソフィーの1つ)
2025/10/02