FOCUS ON BRAVEKINGS

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【FOCUS ON BRAVEKINGS #4】加藤芳規選手インタビュー

いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございす。

ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。

 

 

苦しい時ほど輝く、GK加藤芳規選手が描く理想のセービング

 

9月21日、枇杷島スポーツセンターで行われた2024-25 リーグH レギュラーシーズン第3節のトヨタ紡織九州レッドトルネード佐賀戦。初先発したゴールキーパーの加藤芳規選手は、長袖のユニフォームの袖をまくって自らにスイッチを入れると、パンパンと手をたたいてチームメイトを鼓舞した。

 

加藤選手は最初のシュートストップに成功すると、ガッツポーズをしながら「よっしゃー」と吠えた。その後もシュートを止めるたびに両手を突き上げ、観客席に向かって何度も雄叫びを上げる。この日の加藤選手は29本中15本という驚異の51.7%の阻止率を記録し、チームの勝利に貢献した。

 

「最初に相手のエースのシュートを止めて、それで『今日はいける!』みたいな気持ちができました。あの試合はディフェンスとの連携も良く、相手が自分の思ったところにシュートを打ってきて、何もかもうまくいった。ゾーンに入った感覚でしたね。レットル佐賀戦は毎回結構当たっているので、相手の方に苦手意識があるのかもしれません。相手の方が後手に回っている印象を受けました」と加藤選手は振り返る。

 

松村昌幸ゴールキーパーコーチは、先発起用に応えた加藤選手への賛辞を惜しまなかった。「レットル佐賀のシュートの傾向を見て、加藤の方が合いそうだなと思ってスタートに起用しました。彼もその意図をしっかりと理解してくれて、良いパフォーマンスをしてくれた。チームがそこから勢いに乗ることができました。あの試合はチームにとってもターニングポイントになったと感じています」。

 

 

チームに欠かせないエナジーチャージャー

 

ブレイヴキングス刈谷には、加藤選手に加えて、日本代表の岡本大亮選手、将来有望な平尾克己選手の3人のゴールキーパーが在籍している。試合に登録できるのは2人。選手のコンディションやチームの状況、対戦相手など様々な観点を考慮して起用していると松村コーチは話す。

 

「加藤にはチームにエネルギーをチャージする役割を期待しています。彼を起用するのは、流れが悪い時、ビハインドを背負っている時。岡本を先発で送り出して、劣勢になってきたら加藤でもう一回リチャージしようという意図ですね。また、連戦が続いて少しチームのエネルギーが下がっているような時には、彼のエネルギーが必要なのでスタートに起用したりします」

 

 

加藤選手もその期待を重々理解している。「途中から出場する時は流れが悪い時が多いので、まずは僕が止めないといけない。だから1本目がすごく大事で、どんな形でも絶対に止めて、声を出して、チームの士気を上げていくと決めています」。

 

そう説明する加藤選手の声は、とても小さい。松村コーチによると、「普段と試合中では全くの別人。会社にいる時は『あれ?いたんだ』っていうくらい静かなんですよ。でも試合ではいきなりスイッチが入る。そうした本番の強さは彼の「強み」なのだそう。加藤選手も「普段は静かですね。練習も淡々とやることにしているので、大きな声を出すのは試合だけ。たくさんのファンの方が応援してくださる中でコートに立つと自然とテンションが上がるんです」と苦笑する。

 

「チームの勝利に貢献することが一番のやりがいではありますが、個人的には目立ちたい! キーパーが当たらないと勝てないし、試合が締まらない。『影の立役者になる』というマインドでやっていますが、一方で『目立ってやる』という気持ちを持っていないと攻撃的なキーピングができないので、目立つことをモチベーションにしています」

 

 

「加藤のシャウト」は浦和学院高校時代に作り上げられた

 

ブレイヴキングス刈谷の“名物”であり、大きな武器でもある加藤選手のエネルギー溢れるプレースタイルが確立されたのは高校時代だという。

 

小学生の頃は野球チームに所属し、「将来の夢はプロ野球選手だった」という加藤選手だが、中学では「坊主が嫌だった」という理由でハンドボール部を選んだ。ゴールキーパーになったのは、「始めて1週間でフィールドプレーヤーに向いていないとわかったからです。ラインを踏んじゃうし、ジャンプシュートもできないし、顧問の先生と相談してゴールキーパーになりました」。

ゴールキーパーに転向した当初は「痛いし、怖いし。何が面白いんだろう」と思ったそうだが、「試合をして、シュートを止めて、自分が活躍して、チームが勝つ、それを繰り返しているうちにだんだん面白くなってきました」とゴールキーパーにやりがいを感じるようになった。

 

 

加藤選手が通った吉川市立中央中学校は過去に全国大会に出場したことはあったものの、入部当時の部員は同学年の8人のみ。加藤選手を含めて、中学からハンドボールを始めたメンバーばかりだった。それでも、国士舘大学の豊田賢治監督(元日本代表、元大崎電気オーソル)を育てた名将のもとで、土日は埼玉、栃木、群馬の高校と練習試合、試合のない時は9時から16時までノンストップで練習をする中で鍛え上げられ、急成長。3年生の時には春夏の全国中学校ハンドボール大会で2冠に輝き、加藤選手自身も夏の大会の大会優秀選手に選出されるまでになった。

 

中学卒業後は、日本代表選手を多く輩出している名門・浦和学院高校へ進学。厳しい競争の中で充実した練習を重ねた。

 

「高校2年生の時に、顧問の先生から『静かすぎる。自分からエネルギーを出せ』と言われて、どうしたらいいだろうと考えていました。ちょうどその頃、北京オリンピックアジア予選の再戦が日本で行われて、日本代表GKの四方篤さんがシュートを止めた時にガッツポーズをしてチームを鼓舞する姿を目にして、自分もやってみようかなと始めました」

 

自分を変えて、もっと成長したい。強い信念と努力が実り、加藤選手は各年代の日本代表にも選出されるなど頭角を表していく。

 

 

爆発力と安定感を兼ね備えたゴールキーパーへ

 

加藤選手は筑波大学を経て、2015年にブレイヴキングス刈谷に入団。ゴールキーパー陣の中では最年長になり、中堅と言われる年齢に差し掛かった今も、さらなるアップデートに挑んでいる。

 

松村コーチは、加藤選手の元来の魅力は「野生味」だと評する。「おそらく相手のシューターからすると、予想外の動きをしたりする。そこはセンスというか、教えられない部分。彼のそうした野生味に魅力を感じています」。

 

加藤選手も「1本止めると、野生の勘が働き出して、『こっちに打ってくるんだろうな』という読みが当たるんです。勘が当たっているのか、それとも打たせたい方向に誘導するように自分が先に位置取りをしているのかは、自分自身でもわかっていないんですけどね」と自身の「野生味」を武器だと認識しながらも、ゴールキーパーとして理想とするのは「安定感」だと強調する。

 

「これまでは流れを変えるための爆発的な働きを求められてきました。でもそれは、見方を変えると少しギャンブル的な側面もあったと思うんです。だから今は『安定したセービングがあった上での爆発力』を目指していますし、ここ数年はセオリー通りのゴールキーピングがでてきている手応えもあります」

 

安定したセービングのためには、「とにかく迷いをなくすことが重要だ」と加藤選手は続ける。「迷いがあると一瞬動きが遅れてしまう。『今、迷ったな』というのは自分でもわかるので、そこをなくしていきたい。試合の前に『どこに打たせたいか』とプランをしっかりと立てて、試合では練習通りに、自分を信じてプレーすることが必要だと考えています」。

 

エナジーと野生味溢れるプレーでチームが苦しい時にこそ真価を発揮する加藤選手。リーグ後半戦に向けて、彼の力が必要になる場面はより増えてくるだろう。

 

 

「僕のネームタオルを掲げてくださる方、メッセージをくださる方、最近はゴールキーパーのファンも増えてきていて、ゴールキーパーというポジションの魅力が伝わってきているのかなととても嬉しいです。もっとゴールキーパーの魅力を多くの人に伝えていきたいですし、そのためにも、これからもどんどん叫んで、目立って、リーグH 優勝のために自分の持ち味を最大限に活かしていきます」

 

加藤選手は静かに、しかし力強く語った。

 

 

取材・文/山田智子

2025/02/05