いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューで掘り下げてご紹介します。
2023-24シーズン日本リーグプレーオフファイナルではハンドボールの魅力が詰まった素晴らしい戦いを見せたものの、優勝にわずかに届かなかったトヨタ車体ブレイヴキングス。プレーオフの激闘の裏側と、選手、チームスタッフ、会社のチーム管理スタッフ、そしてファンの皆さんと共に成長した充実のシーズンを、藤本純季選手、吉野樹選手、岡元竜生選手、髙野颯太選手が振り返った。
全員が最後まで戦い続けた、悔しさと充実感の入り混じった敗戦
―長いシーズンお疲れ様でした。プレーオフファイナルでは、一進一退の激戦の末、またしても豊田合成ブルーファルコンに1点差で敗れました。試合が終わった瞬間はどんな気持ちが湧いてきましたか。
吉野:また1点届かずに負けて悔しい気持ちも当然ありましたが、このシーズンはすごく長く、ずっと休みなく試合をしてきたので、「やっと終わったー」とホッする気持ちの方が大きかったです。
去年は悔しくてめちゃくちゃ泣いたのですが、今年は全部出し切ったので、笑顔で終われました。
岡元:オリンピック予選があったので、例年は3月くらいに終わっていたリーグが、5月まで続いたので、本当に長かったですね。
吉野:アジア大会が2つあったので、10月だけで国際試合が14試合あって、トヨタ車体から6、7人日本代表に選ばれました。日本代表選手もハードでしたけど、チームに残った選手たちも少ない人数で練習するので、おそらく走り込みなど、体力的にきつい練習になったと思います。
岡元:人数が少なくなっても、練習時間は全く変わらないので、シンプルに運動量が増えます。キツかったですね。
藤本:日本代表のいない間の練習は、本当に頑張ったよね。
―ファイナルから少し時間が経った今、客観的に試合を振り返って、「1点」の差はどこにあったと分析していますか。
吉野:うーん、分からないです。試合を見返したりもしたのですが、別にどこが悪かったというのはなく、全員が全力で戦った結果がこうだったというか……。
あえて言うなら、日頃のトレーニングでどれだけ「日本一」を目指して取り組んできたかという部分で、豊田合成との差がわずかに出たのかなと。考えられるのは本当にそれぐらいで、僕らは全く悪いプレーをしていなかったし、最後まで勝負しにいっていました。
藤本:何度もリードされた展開で、よく毎回追いついたなと思っています。ゴールキーパーの加藤芳規が7mスローを2回くらい止めて命拾いしたところも含めて、豊田合成に試合の流れを持っていかれそうな場面でも粘って粘ってついていった。後半は本当に何回も「もうダメだ」と思う瞬間がありました。
でも、強いて言うなら、速攻で外したあれじゃない?
吉野:俺か(笑)! あの1点か! (髙野)颯太がめっちゃ空いてるのに、自分で打って外してしまった。
髙野:信用されてない……(笑)。
吉野:後で映像を見返したら、颯太がめちゃくちゃ空いてるのに、あの瞬間は見えていないんだよね。
藤本:他にも追いつけた場面が結構あって、そのどこかで逆転できていたら、そのままの勢いで勝てた可能性はあったけど、相手のゴールキーパーが当たっていたね。
吉野:いろいろとミスはありましたが、本当に全員が全てを出し尽くした試合でした。
―プレーオフで印象に残っているプレーはありますか?
岡元:(2ndステージ・ジークスター東京戦の前半終了間際の)吉野さんのスーパーロングシュートです!
髙野:あれは、すごかった。
藤本:入ると思わんかった。
岡元:あれ、僕のパスです。キャッチしやすかったでしょ(笑)?
吉野:ありがと!
吉野:残り4秒でタイムアウトを取って、ラース・ウェルダーHC(ヘッドコーチ)からは「僕が(渡部)仁さんとクロスをして仁さんが最後シュートを打つ」という戦術を言われていたのですが、「4秒ではムリだよ」って思って、仁さんに「打っていい?」って聞いたら「いいよ」と言ってくれたので気持ちよく打ち抜きました。
藤本:球、めっちゃ速かったよね。軌道もディフェンスを超えたらすっと落ちて。落としたの?
吉野:狙い通りです(笑)。真ん中に身長2m級の選手がいたから、ちょっとでもかすって、軌道が変わって入ったらと考えて打ちましたが、願った通りの感じで入りました。
藤本:キーパーが届かなくて、バーにあたって入るあたりが憎らしいよね。
吉野:映えましたね(笑)。
岡元:前半3点差で終わるか4点差で終わるかは相手のメンタル的に大きかったよね。
吉野:あの時、「勝ったー」って思っちゃったよね。
髙野:あとは、櫻井(睦哉)のジークスター東京戦の(シュートを)8分の8で決めたのもすごかったね。
岡元:気合が入ってましたね。
好調の要因はディフェンス。守備の要の髙野がベストディフェンダー賞を獲得。
吉野:僕が記憶に残っているのは、ジークスター戦で元木(博紀)さんが速攻で突っ込んだのを颯太が利き手側に入ってチャージを取って、そのまま速攻に転じた場面。あそこで「元木押さえた。勝った!」って思った。
藤本:勝った回数多くない(笑)?
吉野:今シーズンはディフェンスがすごく良くて、好調の要因はそこだったと思っています。
岡元:ディフェンスの要がいいからね。
藤本:うちからベストディフェンダー賞が出るのは久しぶりだからね。
吉野:颯太、ベストディフェンダー賞獲ってから、ちょっと大きくなったよね。
髙野:なってない!! でも、やっと獲れました。
―具体的にディフェンスのどんなところが変わったのですか。
岡元:これまでの「身体を止める」から、「ボールを取る」ディフェンスシステムに変えたところが大きかったと思います。それでいきなり社会人選手権で優勝できて、「取りに行く」ことでこんなにも豊田合成の得点を抑えられるんだと、「今シーズン、いけるぞ!」と確信が持てました。さすがに豊田合成はリーグ戦では修正してきましたけど……。ラースHCが去年までの僕たちの試合を見て、ディフェンスを変えた方がいいと考えて、少しシステムを変えただけでこんなに変わるんだと不思議でしたね。
吉野:それに加えて、ラースHCは相手選手が9mの点線の中に入ってきたら、汚い言葉ですけど「殺せ」って言うんですよ。あとは相手の利き手側に立つことも徹底されます。
試合でも練習でも、それができていなかったらラースHCに激怒される。その部分の動画を切り抜かれて、みんなの前で注意されるので、それが嫌でみんな必死でディフェンスする。技術というよりは闘うマインドの変化が大きいと思います。
藤本:守った後に感情を表現する選手が多くなったよね。それも、相手から見るとすごく嫌なことだよね。
岡元:特に4月のホームゲームのジークスター東京戦はみんなギラギラしてたよね。約2,000人のファンの人たちに会場を盛り上げていただいたので、出場しているメンバーだけが戦っているのではなく、会場全体でジークスターを倒しにいっている感覚がありました。あの時のディフェンスは本当にすごかったですね。
吉野:今年は得点を取った時よりもディフェンスで守った時の方が盛り上がってるよね。
髙野:ディフェンスは楽しいです。得点を取るよりフリースローをとる方が僕は嬉しいですね。相手の考えていることを読んで潰せると楽しいし、それが快感でやっています。
「今年のチームは過去最強」(岡元)
―ディフェンスの話なども出ましたが、今シーズンは社会人選手権で優勝し、日本リーグのレギュラーシーズンもずっと1位、2位で推移してきました。ラースHCのもとで大きく成長したシーズンだったと思います。
岡元:僕は8シーズンが終わったところなのですが、今年が過去最強のチームだったと感じています。これまでは接戦で勝ちきれなかったり、追いつかれると、そのままズルズルと逆転負けしてしまったりすることが多かったのですが、今シーズンは力で突き放す、押し切ることができる。この長いリーグを戦い抜けるくらい、力のあるチームになったと思います。
藤本:ケガ人がいた中でも問題ないくらい層が厚くなりました。アイク(富永聖也)が3枚目をやるようになって成長して、颯太、アイク、櫻井など若い世代に引っ張られるようにチーム全体のディフェンスの意識が上がっていきました。加藤芳規とか北詰明未とか活躍したし、成長した選手が多かったシーズンでしたね。
吉野:今シーズンはポストシュートがすごく増えたよね。
岡本:今シーズンはブロックを敷くか、スペースに動くかはポストプレーヤーの判断に任されている。颯太もタイミング見て動いて点を取ったり、ポストプレーヤーが動くことによってできたスペースをサイドが使ったりと、色々な選択肢が生まれるようになりました。プレーオフでもありましたが、得点が欲しい時にアイデア一つで得点が取れるようになったのは大きな変化だと思います。
ホームで試合をするのが楽しかった
―先ほども会場の盛り上がりの話が出ましたが、今シーズンは選手、チームスタッフ、そして会社のチーム管理スタッフが連携し、みんなが同じ想いをもって進化した1年だったと思います。
吉野:今シーズンは楽しかったです。豊田合成には負けてしまったんですけど、他のチームには全て勝てましたし、充実した1年でした。
藤本:ホーム戦がすごく楽しかったよね。いろいろな会場で試合をするから、ホーム戦の雰囲気の良さが際立つよね。
岡元:いろんな人から、「トヨタ車体のホーム戦は演出がすごいね」って言われました。行きたい、行きたいって。いい席を取るために、すごく早い時間から並んでいるって聞きました。
―開場前から行列ができて、走って入ってくる人も多いです。
岡元:僕たちも最初、スパークや炎が出たりするのは知らなかったのでびっくりしました。「いつも通りですけど」みたいな顔をしていましたが、内心ドキドキでしたね。
高野:選手の名前入りのタオルも、目立っていいよね。相手は絶対嫌ですよね。赤一色に染められて。
藤本:昨シーズンまではプレーオフは特別感があったんだけど、今はホームゲームの方がすごいから、プレーオフも全然緊張しなかったよね。
吉野:本当にホーム戦は楽しかった。チームとファンと会社がより一つになったシーズンだったと思いますし、それもあって楽しかったですね。
「ステップアップしていくイメージしかない」
―総合的に「土台」ができた1年だったと思います。さらに来シーズンはパウエル・パチコフスキー選手も加入します。選手目線で、どのようなチームづくりをしていきたいと考えていますか。
藤本:この1年だけでも積み上がっている感覚がすごくありますし、ここからステップアップしていくイメージしかないです。引退する選手もいますが、ベースは大きく変わらないし、おそらくラースHCも1年目に全部詰め込んだ訳ではないと思うので、ここから上がっていく未来しか見えないですね。
ラースHCが加わっただけで、マインドがこれだけ変わったので、外国人選手が入ることでどれだけ刺激があるのか楽しみです。
岡元:ポストとしては、難しいパスを取った時が一番楽しいので、パウエル選手がどんなパスをくれるんだろうとワクワクしています。
吉野:コミュニケーションの面は、少し不安じゃない?
藤本:でも、日本語を勉強しているらしいよ。
岡元:僕は同級生なので、タメ口でいく予定。
藤本:でも英語だと、タメ口かどうかも分からなくない? 仁とかはコミュニケーション取れると思うけど、パウエル選手が来て最初の2ヶ月間は日本代表組がいないからね。
でも、とりあえず、いっしょに飯に行けば、なんとかなると思う。
吉野:外国人選手のポジティブなマインドは素晴らしいと思っています。豊田合成も戦力という意味だけではなくて、外国人選手が加わって雰囲気が変わった印象があります。プロフェッショナルな選手からいろいろ盗んで、みんながワンランクレベルアップすれば、来シーズンこそ優勝できるんじゃないかと思っています。
―今シーズンは試合を重ねるごとにホームゲームではお客様が増えていきました。ファンがチーム、選手を支え、応援していただけることのありがたさを実感したシーズンであったと思います。最後にファンの皆さまへメッセージをお願いします。
髙野:今シーズンは皆さんの応援の声が試合を重ねるごとに大きくなっていって、それが僕たちの力になりました。結果で恩返しをしたかったのですが、今シーズンはそれができなかったことが悔しいです。来シーズンこそは優勝して、結果で皆さんに恩返しがしたいと思います。
岡元:今シーズンは会場一体で戦っているとすごく感じたシーズンだったので、颯太も言いましたけど、それを来シーズンは必ず結果でお返ししたいです。優勝した時の会場の盛り上がりを想像するだけで気持ちが高まります。その瞬間を皆さんと一緒に味わえたら最高だなと思うので、必ず優勝します。
吉野:今回のプレーオフで負けて、たくさんのファンの方が泣いているのを見て、それくらい一緒に戦ってくれているんだと、あらためて心強さを感じました。来シーズンはみんなで喜びを分かちあえるように頑張ります。
藤本:僕は13シーズン目が終わったんですけど、今年は過去で一番強いチームだったし、応援してくれる方もすごく増えて、本当に一番いいシーズンだったと思います。
この年齢になってこんなに良い環境で日本一を争うことができているのは本当に幸せだなと感じますし、この幸せな時間が長く続けばいいなと思います。
今のこのメンバーはもはや優勝争いをするのは当たり前。一度優勝するだけでなく、ずっと優勝し続けてほしい。
吉野:これ、ファンの方に向けたメッセージですよね?
藤本:俺は今、お前らに言ってるの!
吉野、髙野、岡元:(笑)
藤本:だから、ファンの皆さんにはその過程をずっと見守って、応援していただけたら嬉しいです。
<編集後記>
スポーツライターに必要な才能は何か。
ここだけの話を聞き出す取材力? 面白い原稿を書く文才? もちろんそれも必須ではありますが、最も大切なのは「その時、その場にいること」だと私は考えています。
そういう意味で、今シーズンのトヨタ車体ブレイヴキングスの旅に伴走できたことはこの上ない幸運でした。
会場を訪れるたびに、チームも会場の雰囲気も劇的に進化していく。そのエキサイティングな過程を、選手・スタッフの声を、言葉として残す。スポーツライター冥利に尽きる大役を任せていただき、ありがとうございました。
来シーズンはいちファンとして観客席で、優勝の喜びを一緒に味わいたいと思っています。
取材・文/山田智子
2024/06/07