BACKYARD BRAVEKINGS

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【BACKYARD BRAVEKINGS#7】門山哲也チームディレクターインタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。
トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタビューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

今シーズンからチームディレクターとしてチームを支えている門山哲也さん。選手、アシスタントコーチ、ヘッドコーチの経験を生かし、ラースヘッドコーチと二人三脚で「チームを内側から鍛える」役割を担っています。新たな立場で得た気づきや、今後どのようなチームを作り上げていきたいか、その想いを聞きました。

 

新たな役職で、チームに、ハンドボールに恩返しがしたい

 

―今シーズンより新たにチームディレクター(TD)に就任されました。チームの中でどのような役割を担っているのでしょうか

 

門山:今シーズンは初めて外国人コーチのラース・ウェルダーヘッドコーチ(HC)を迎えました。ラースHCの目指す方向性と、トヨタ車体ブレイヴキングスがこれまで築いてきた歴史などを含めた価値観をつなぎ合わせることが僕の主な役割です。通訳として言葉のつなぎ役をすることもあれば、選手、コーチングスタッフ、会社の間に立って、それぞれの考えを円滑につなぎ合わせることもします。

ラースHC体制が好循環しているのは門山TDの貢献によるところが大きい

 

―門山TDが、選手・アシスタントコーチ・HCとさまざまな経験をしているからこそ担える役割ですね。

 

門山:僕も海外でプレーした経験があるので、言葉が通じない、文化の違いがある国で生活するしんどさは理解できます。そうした状況でも、ラースHCはチームを強くするために全力を注いで戦っています。だから僕も、彼が能力を100%発揮できるよう最大限サポートしたいと考えています。

HCは孤独な仕事です。経験しないと分からない大変さがあります。ですから、ラースHCと食事やウェイトトレーニングを共にして、なるべく長く時間を共有し、彼の考えていることを理解するようにしています。それは自分自身の学びにもなっています。

試合の表情とは別にチームのためには時にGMやマネージャーのような幅広い役割をいとわずこなす

 

―どんなところにやりがいを感じていますか。

 

門山:TDはこれまでチームになかった役職です。前任者がいない分、フレキシブルに、自分に何ができるのかを考えさせてもらえる。僕は人生をかけてハンドボールに取り組んできましたし、ハンドボールに育ててもらったので、恩返しをしたいという思いを強く持っています。このチーム、そしてハンドボールのために、今僕にできることや求められていることを考え、それに挑戦できることに非常にやりがいを感じています。

 

―門山TDから見て、ラースHCはどんなコーチですか。

 

門山:彼が最も大事にしていることは、どんなことがあっても互いにリスペクトし合うことです。選手はそれぞれいろいろな考えを持っていますが、互いに尊重し、全員が優勝したいという思いを持って努力し続けることが大事だと、ラースHCはいつも話しています。

ラースHCは非常に負けず嫌いで、選手以上に勝ちたい気持ちが強い。「今シーズンは絶対に勝つ」「負けてオフを迎えるなんてごめんだ」と毎日口にしています。

また、日本人選手はポテンシャルがあって、まだまだ伸び代がある。「こんなレベルで満足してはいけない」「もっとできる」とも言い続けています。彼自身もコーチとしての向上心が高く、「次はこんなことをやってみたい」とアイデアが尽きない。ハンドボールのことを考えるのが楽しくて仕方がないようで、夜の10時頃に、「テツ、今、前節の試合の映像を見ていて、こんなことを試してみたいと思ったのだけど、どう思う?」と電話してきます。もし僕がその映像を見ていなかったら怒られます(笑)。

そういう厳しい面もありますが、「勝ちたい」「選手を成長させたい」「いいチームにしたい」という思いが滲み出ているので、選手もスタッフも信頼してついて行きたいと思えるのではないでしょうか。

リーグ屈指のバックプレーヤー渡部でも門山の存在は特別だ

 

ブレイヴキングスの価値は「強さ」「成長環境」「熱狂」

 

―ラースHCの招聘に続き、2024-25シーズンにはポーランド代表のパウエル・パチコフスキー選手の加入が発表されました。次々と新しいことにチャレンジする理由を聞かせてください。

 

門山:人が成長し続けるためには刺激が必要です。組織も同じで、変化をしないことは停滞だと、僕は考えています。ですから、外国人に限らず、社外から人を迎えるということは、チームを良くしていくために欠かせないことだと思っています。

僕も、僕の前のHCの香川(将之)さんも、選手時代からトヨタ車体にいるので、このチームのことはよく分かっています。だから結束力は高かったと思うのですが、与えられる刺激は少なかった。ラースHCが来て、チームにとてもいい風が吹いています。一人でこれほど空気が変わるのだと、強く実感しているところです。

TDになって、あらためて「このチームに求められていること」「このチームが提供できる価値」を考え直し、ブレイヴキングスの目指す果たすべきビジョンを作り上げました。現場として、フロントとして、会社として何をすべきなのか、このチームに関わる全員が共通理解を持つべきだと考えたからです。そのビジョンに基づいて、新しい取り組みを行なっているところです。

 

―「ビジョン」について詳しく聞かせてください。

 

門山:このチームの大きな価値の一つは「強い」ということです。常に優勝争いをできる位置にいるチームだということ。今年、来年、優勝するということだけではなく、5年後も10年後も勝ち続けるチームであること。ラースHCも「大事なことは自分がいなくなっても勝てるチームを作ることだ」とよく話しています。

2つ目が、「選手が成長し続けられる環境を提供できる」こと。トヨタ車体ブレイヴキングスには日本代表選手が多く所属しています。だから自分たちが勝つことだけを考えていればいいわけではありません。このチームから世界を目指していく選手を一人でも多く輩出すること、しかもより強い状態で送り出すこともこのチームの役割だと思っています。

選手は自分の成長に無意識のうちに蓋をしてしまうことがあります。現状に満足せず、まだまだ上があると感じられるように、「選手を内側から鍛えること」も僕の仕事だと考えています。

選手時代に単身デンマークに渡った経験、選手兼任監督で苦労した経験すべてが今に生きている

 

―パウエル選手には、今いる選手を内側から鍛えるための新たな刺激になってほしいと期待しているということですね。

 

門山:ラースHCがいま必要としていることは、言葉では伝えきれない「本物」を選手に分かってもらうことです。パウエル選手は単なる“助っ人”ではなく、ラースHCの求めるスタンダードを体現し、長くチームに影響を与え続けてくれることを期待しています。

例えば、渡部仁選手と吉野樹選手が海外に短期留学しました。彼らは日本のトップ選手で、国内に数人しか競争相手がいない。彼らは自分を律して一生懸命トレーニングをしてくれていますが、このチームだけで新しい刺激を受け続けることが難しい状況にあります。彼らが海外で新しい刺激を受けたことによって成長し、それをチームにも還元してくれることでチーム全体が成長できています。

それと同じように、左利きのパウエル選手は渡部選手にはすごくいい刺激になるし、二人で切磋琢磨することで、選手としての可能性をもっと広げられる。渡部選手は日本のハンドボール界にとっても重要な選手で、彼が成長すれば日本代表の強化にもつながります。さらに練習で対峙する吉野選手や富永聖也選手なども刺激を受けると思いますし、パウエル選手には色々な影響を与えてくれる存在として期待しています。

 

―今のお話を伺って、Jリーグの創成期を思い出しました。ジーコら世界的選手が来日し、日本のサッカー界にプロとしてのスピリットをインストールした。それが日本のサッカーが強くなっていく礎となりました。

 

門山:その通りです。ジーコが所属していた鹿島アントラーズは長い間強豪であり続けていますし、日本のサッカー界に良い影響を与え続けていますよね。ブレイヴキングスもハンドボール界でそのような存在でありたいと思います。

 

―ジークスター東京がプロチームとしてハンドボール界に新たな風を吹かせていますが、トヨタ車体という実業団チームが新たなチャレンジをすることは、別のインパクトがあると思います。

 

門山:おっしゃる通りで、僕たちは他のチームのロールモデルとなり、日本ハンドボール界へも貢献する重要なポジションにいるチームだと考えています。

ありがたいことに、このチームに関わってくれる人は、ファンも、社員も、非常に熱量が高い。自分たちもブレイヴキングスの一員であり、一緒に戦いたいと思ってくれている。僕たちは泥臭いチームで、スマートではないかもしれないですが、皆さんはそこに魅力を感じてくださっています。「一緒に熱狂できること」がこのチームの良さであり、大事にしたい3つ目の価値です。

 

―これは私個人の考えですが、今シーズン、ブレイヴキングスが成長し続けたことが、日本代表がパリ2024オリンピックの出場権を獲得したことに影響を与えたように感じています。

 

門山:僕自身も日本代表として何度もオリンピックに挑戦して勝ち取れなかったので、本当にすごいことを成し遂げたなと思いますし、少し羨ましい気持ちもあります。そして切符を勝ち取った大会の主力をブレイヴキングスから何人も輩出できたことを誇りに思います。

ラースHCが来て、この1年間で日本代表選手の成長が加速したことも大きいですし、代表選手のバックボーンには日頃このチームで一緒に切磋琢磨している選手の存在があります。そういう意味で、オリンピックの切符を取ることにチームとして貢献できたのであれば、とても嬉しく思います。

いつもはにこやかな門山も試合中の気迫は並々ならぬものがある

 

「新たな成長期」を迎えた今シーズン、優勝することで成長を証明したい

 

―いよいよプレーオフが始まります。昨シーズンの日本リーグプレーオフは豊田合成ブルーファルコンに1点差で敗れて準優勝に終わりました。今年の日本リーグ優勝にかける思いを聞かせてください。

 

門山:去年は延長の末に1点差で敗れました。最善は尽くしましたし、優勝するチャンスが目の前にあっただけに悔しい気持ちもあります。でも僕自身は「優勝するためにはまだ何か足りないんだぞ」と言われている気がしました。

あの日から1年間、優勝するためにチーム全員で取り組んできて、少しずつ形になってきました。昨シーズン足りなかった1点が埋まってきたという手応えがあります。

 

―豊田合成ブルーファルコンとの今シーズンの対戦成績は1勝2敗です。

 

門山:敗れた2試合はいずれも1点差でした。もしかしたら「まだ1点足りないぞ」と言われているのかもしれないですが、僕には去年の1点とは全く違う1点に思えます。

豊田合成さんがチームとして円熟味が出てきている一方で、僕たちはこの1年で新たな成長期を迎えています。昨年末の段階では1点足りなかったかもしれませんが、そこから5ヶ月で僕たちは大きく成長できている。だから、必ずひっくり返せると自信を持っています。

 

今年は例年以上に重要なシーズンです。初めて外国人HCを迎えるという新たなチャレンジをして、選手たちもラースHCの求める基準に応えようと成長してきました。優勝できれば選手はさらに自信を持てるし、会社としてもこのやり方が良かったと確認することできます。そしてそれは次の一手につながっていきます。自分たちが良い方向に進んでいると確認するためにも、なんとしても優勝をつかみたいと思います。

 

取材・文/山田智子

2024/05/16