いつもブレイヴキングス刈谷へご声援いただき、誠にありがとうございす。
ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。
「カキツバタ」
2月15日、刈谷市体育館で行われた安芸高田わくながハンドボールクラブ戦の勝利チームインタビュー。アリーナMCからこの日着用した紫ユニフォームの意味を聞かれたパウエル・パチコフスキー選手は流暢な日本語でこう叫び、満員のアリーナを沸かせた。
カキツバタは、ブレイヴキングス刈谷がホームタウンとする刈谷市の花だ。この日、アリーナをいつもの赤黒からカキツバタ色に装いを変えて行われた「刈谷シリーズ」は、2つのつながりを強化するために企画されたという。カキツバタカラーに染まったアリーナにはどのような思いが込められていたのか、プロジェクトに関わった関係者に話を聞いた。
男子ハンドボール部と女子バレーボール部の連携を強化
このプロジェクトは1年ほど前に始まった。
「トヨタ車体には、男子ハンドボール「ブレイヴキングス刈谷」と、女子バレーボール「クインシーズ刈谷」と、国内トップリーグに所属するチームを2つ保有しているにもかかわらず、練習場が別々なこともあって、これまではあまり交流ができていませんでした。会社として2つのチームが存在している価値を生かしていくべきではと以前から提案をしていました」
そう話すのは、門山哲也チームディレクター(TD)だ。
「例えば、アルビレックスはサッカー以外にもいろいろな競技のチームを持っていますが、みんな同じオレンジのユニフォームです。一方でトヨタ車体の場合は、ハンドボールは赤でバレーボールは青のユニフォーム。メーカーもデザインも違います。同じトヨタ車体のチームだと感じてもらえるように、何か共通するものを作れないかと考えていました」
そんな折、2024年10月にトヨタ車体は男子ハンドボール「ブレイヴキングス刈谷」と女子バレーボール「クインシーズ刈谷」の活動を通じた「スポーツに関する連携協定」を刈谷市と締結する。
「2024-25シーズンから『ブレイヴキングス刈谷』『クインシーズ刈谷』とチーム名に『刈谷』が入りました。刈谷市のスポーツ振興だけでなく、まちの活性化に寄与するためにも、刈谷市の皆さんとのつながりを深めていきたいと考え、両チーム共通のユニフォームを作るのであれば、刈谷市を象徴するカキツバタカラーにしようという話になりました」とブレイヴキングス刈谷の運営を担当するスポーツ統括部の村永奈央さんは振り返る。
※村永さんはかつてクインシーズで活躍した選手で、引退後は2チームの運営を中心に業務を担っている。
“選手”と“スタッフ両方の視点で見られる村永さんだからこそ、行きついた思いがあった。
2つのチーム、そして地域との連携を深めるカキツバタカラーのユニフォームは、細部の仕上がりにもこだわった。「最初のデザイン案は薄い紫だったんです。それでは紫という色が伝わりにくいし、今シーズンのユニフォームに採用しているタイヤ痕をモチーフにしたデザインメッセージが伝わらないので、色が変わっても『ダイナミックなプレーや圧倒的な強さ、熱い気持ちや闘争心』というテーマは変わらないように調整しました」。ブレイヴキングス刈谷の魂を残しながら、クインシーズ刈谷、刈谷市とのつながりを表現した門山TDの自信作だ。
「刈谷シリーズ」として刈谷市の魅力を発信する
さまざまな思いが詰まった紫ユニフォーム、ブレイヴキングス刈谷は2月15日と3月29日、クインシーズ刈谷は2月1、2日と3月22、23日のホームゲームで着用することに決まった。素晴らしいユニフォームができたのだから、この特別なユニフォームを引き立て、ホームゲームを刈谷市のさまざまな魅力を発信する機会にしたい。運営スタッフは「刈谷シリーズ」と題して大々的にPRすべく準備を進めていった。
「紫と刈谷というキーワードがあったので、この二つを表現できる施策をスタッフみんなで考えていきました。難しかったのは、紫の使い方です。ブレイヴキングス刈谷のチームカラーである赤と黒を残した上で紫を差し色としてプラスするのか、全面的に紫に変えるのかという点でした」(村永さん)
検討を重ねた結果、会場装飾も紫を全面に打ち出すことに。試合会場では紫のペンライトやシリコンバンド、ハリセンを配布し、選手入場時には360度ぐるりと紫の光が揺れる幻想的な光景を作り出した。
イベントも、刈谷市を全面に押し出した。当日は刈谷市の稲垣武市長とマスコットキャラクター・かつなりくんが来場。試合前には稲垣市長が始球式を行った。ハーフタイムには刈谷市を中心に活動している和太鼓チーム「刈谷やぐら太鼓」が演奏を披露し、来場者を楽しませた。
ロビーには刈谷東高校折り紙部の作品が展示された。10cmほどの小さなパーツを組み合わせて作られた全長2mほどの立体のアニメキャラクターや富嶽三十六景をモチーフにした屏風絵など大作の他に、ブレイヴキングス刈谷とのコラボレーションのために制作されたカキツバタの花など、折り紙の概念を変えるような作品がずらりと並ぶ。
「刈谷市の小中高校向けの招待活動を行うで、どこかの学校にブースを出していただけないかと地域の学校についてリサーチしていました。その中で、刈谷東高校に折り紙部があることを知り、お声がけさせていただきました。カキツバタの花やブレイヴキングス刈谷とクインシーズ刈谷のマスコットを作っていただくなど、この機会に積極的に参加していただいて本当にありがたかったです。3月29日の試合では折り紙ワークショップを開催してもらうことになっています」と村永さん。
アリーナグルメは、刈谷市商店街連合会の協力を得て刈谷市内の人気店が揃った。定番の唐揚げや焼きそば、餃子、本格的なイタリアン、コーヒーやスイーツまで。応援のエネルギー補給にと、多くのファンがキッチンカーに長い列を作っていた。
愛知県商店街振興組合連合会の刈谷市商店街マネージャー大中隆志さんは「商店街振興組合連合会はこれまでも、FC刈谷や豊田自動織機女子ソフトボール部シャイニングベガなどスポーツイベントとのコラボレーションをしてきました。子どもたちが身近にトップレベルのスポーツを観られるのは素晴らしいと思いますし、商店街としても地元の企業と連携を図りながら、地域に貢献したいという思いを持っていますので、前向きにご協力をさせていただきました。今回出店しているお店はすべて刈谷市に店舗があります。イベントを通してお店の名前や味を知っていただいて、店舗の方にも足を運んでもらう。そのような循環の中で刈谷市が発展していくのが理想的ですね」と相乗効果に期待を寄せる。
出店者である「YELLCAFE」の柘植祥史さんは「昨年のパリオリンピックの時に総合運動公園で行われたパブリックビューイングにも出店させていただいたのですが、スポーツイベントのお客様はアクティブな方が多いなという印象です。試合会場での賑わいが、刈谷市全体の賑わいにつながっていったら嬉しいですね」と話す。
これはスタート。これからも地域のために
「アンケートの結果を見ると、『紫がすごくかっこよかった』『紫を着ている選手が新鮮でよかった』という声が大半でした。選手たちも紫のユニフォームを気に入っている様子でした」と村永さんは安堵の表情を見せる。「お客様に楽しんでいただけたことに加え、今回の刈谷シリーズを通じて、刈谷市役所、商店街の皆様をはじめ、刈谷市のたくさんの方たちとつながりを作ることができました。それが一番大きいことです。これがスタート。これからさらにスポーツを通じた刈谷市の活性化に貢献していきたいと考えています」。
門山TDも「これは大きな一歩」と語る。「僕が監督をしていた数年前から、ブレイヴキングス刈谷とクインシーズ刈谷が一緒にトレーニングをすればお互いに刺激になることもあるかもしれないですねと話をしていたのですが、コロナがあったりで実現できていませんでした。競技は違えど国内トップリーグで戦う選手なので、今後はもっとお互いに刺激を与えあえる機会を増やせるといいですね」。
実は今回、同じ色のユニフォームを着用しただけでなく、中断期間中だったブレイヴキングス刈谷の選手がクインシーズ刈谷の試合を観戦した。「その時にお客さまに刈谷市にまつわるクイズに答えていただくイベントを行ったのですが、3問目で観客席にいたブレイヴキングス刈谷の選手に当てたんですよ」と村永さんは明かす。
指名されたのはパチコフスキー選手。この時出されたクイズの答えは、冒頭のヒーローインタビューと同じ「カキツバタ」だったのだ。
3月29日にも再び「刈谷シリーズ」が行われる。今回はパープルペンライト、刈谷シリーズ限定ハリセンに加えて、先着1000名に紫Tシャツがプレゼントされる。さらに刈谷東高校折り紙部のワークショップや「刈谷城盛上げ隊」によるハーフタイムイベント、キッチンカーには新たな刈谷市のお店が出店予定だ。
「ブレイヴキングス刈谷はリーグHの中で最もお客さまのレプリカユニフォームの着用率が高いんです。ありがたいことなのですが、2度目の刈谷シリーズでは観客席を赤ではなく紫に染めたい。選手と同じ紫色のTシャツを身に纏って、一緒に戦っていただけたら嬉しいです」
取材・文/山田智子
2025/03/13