BACKYARD BRAVEKINGS

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【BACKYARD BRAVEKINGS#3】渡部仁選手インタビュー

いつもトヨタ車体ブレイヴキングスへご声援いただきありがとうございます。

トヨタ車体ブレイヴキングスのメンバーがとる行動や想いの背景、裏側、バッググラウンドを、ファンの皆さんに深く知っていただけるよう、インタービューやコラムで掘り下げてご紹介していきます。

 

 

36年ぶりに自力でオリンピックの切符を勝ち取ったハンドボール男子代表「彗星ジャパン」。10年近く日本代表の中心選手として活躍し、歴史的快挙達成に貢献した渡部仁選手は、アジアを代表するライトバックとして今なお進化を続けている。

今回は渡部選手のインタビューに加えて、北詰選手からも渡部選手のすごさを聞いた。

 

入団時から鍛え続けたフィジカルが武器

 

―11月25日の大崎電気戦で通算800得点を達成されました。

渡部選手:2011年の入団当初は、ポジションも今とは違うライトウィング(RW)でしたし、800得点を達成できるとは全く想像していませんでした。自分はスタープレーヤーではないと思っているので、まずは試合に出る、次は新人賞を取る、個人タイトルを取る、日本代表になるというように、目標を一つひとつ着実にクリアすることでステップアップし、ここまで来たという感覚です。

 

―RWからライトバック(RB)へコンバートしたのはいつ、どのようなきっかけだったのでしょうか。

 

渡部選手:日本代表のヘッドコーチがダグル・シグルドソンさんに代わって少し経った頃なので、3〜4年前。たしかヨーロッパ遠征の直前の合宿だったと思います。練習中にRBの選手が怪我をして、急遽RBを紅白戦でやることになりました。そこで評価されて、ヨーロッパ遠征中もRBとしてプレーしました。

 

―RWとRBではかなり役割が違いますが、すぐに順応できるものなのでしょうか。

 

渡部選手:大学2年生までRBをやっていたので、全く初めてというわけではなく、プレーに関してはそこまでギャップは感じませんでした。ただ大学と日本代表では求められるレベルが格段に違うので、自分としては評価されるほどのプレーではなかったと思っています。

 

―RBにコンバートして、苦労したことはありましたか。

 

渡部選手:RWはディフェンスの時に相手のエースとマッチアップをしなければなりません。僕は身長が183cmなのですが、日本代表でも平均以下、海外だとほとんどの選手が自分より大きい。この身長で戦うために色々な工夫をしてきました。

 

―“工夫”についてもう少し詳しく聞かせてください。

 

渡部選手:フィジカルを鍛えて、コンタクトで負けないことです。U21代表として国際試合を経験して以来ずっとテーマにしています。フィジカルトレーニングを10年以上続けてきて、ようやく最近「アジアでは負けない」と感じられるようになりました。

 

―体重が100kgあると聞いて、大変驚きました。その体重であれだけ俊敏に動ける選手を他にあまり見たことがないので。

 

渡部選手:「100kgの人の動きではないですね」と良く言われます。

 

身体はただ大きくすればいいというわけではありません。僕も大学から社会人になったときに、みっちりとウエートトレーニングをして2、3ヶ月で80kgから93kgまで増やしたのですが、あまりに急激に増やしたせいで、全く動けなくなってしまった経験があります。

そこでフィジカルコーチやアスレティックトレーナーから姿勢や身体の使い方について聞いたりしながら、自分なりに工夫して、段階的、継続的に取り組んできました。後輩の川﨑駿選手もウエートトレーニングの知識が豊富なので、話を聞きながら一緒にトレーニングしています。

 

―「渡部塾」と呼ばれているそうですね。

 

渡部選手:僕は元々身体能力が高かったわけではありません。トレーニングによって、ジャンプ力、パワーやスピード系の数値を上げて後天的に手に入れたタイプです。だから今のキツいトレーニングの成果が、1年後、2年後、10年後必ず出てくると信じています。川﨑選手、最近は北詰明未選手なども一緒にやるようになっているんですけど、若い選手には半ば強制的に取り組ませています。

 

さらに強いチームになるためには、意見をぶつけ合う風土が必要

 

―今年3月~5月にクウェートリーグのAl Qadsiaへの短期移籍を経験しました。そこでもセルビア人の監督が渡部選手のフィジカルを高く評価していたと聞きました。

 

渡部選手:チームメイトにはクウェート代表選手が多くいましたが、その中でも継続して取り組んできたフィジカルトレーニングは自分の一番の武器であると自信を深めることができました。

 

―他にクウェート移籍で得たものはありますか。

 

渡部選手:初めてプロ選手としてプレーし、試合で結果を残す重要性を痛感しました。
ある試合で得点は1点にとどまったものの、10アシストくらいしたことがあったんですね。僕としては周りを生かして、チームの勝利に貢献できた手応えがあったのですが、オーナーから「お前の役割は点を取ること。3日後の試合でも点を取れなかったら、日本行きのチケットを用意しておく」と激怒されました。ああ、これがプロの世界かと。
次の試合はとにかくシュートを打ちまくって、チームで最も点を取ったんです。でも外したシュートも多かったし、アシストは0だったので、自分としては満足度が高くなかった。でも試合後ロッカールームに入ってきたオーナーが「これこそ俺がお前に求めていたことだ」とがっちりと手を握ってきて。いまいち納得はいかないですけど、このチームで評価されるためには得点を取らなければいけない。プロとは、勝つこと、点を取ることといった結果だけを評価される厳しい世界だと思い知りました。

 

―全員が自分の結果を求めすぎると、チームのバランスが崩れそうな気もします。

 

渡部選手:他にフリーの選手がいるのに僕が無理にシュートを打ったとき、日本であれば「今、空いてたよ」くらいで終わるんですけど、クウェートでは「なんでパスしないんだ。俺のシュートチャンスを奪うな」と怒鳴り合いになります。みんな生き残るために必死なんです。
練習中もチームメイト同士で殴り合い寸前の喧嘩が見られます。チームメイトも止めずに、「あれも必要なことだから」と見ています。極論で言えば、仲が悪いけど舞台に立つと面白いお笑い芸人のように、勝つという同じ目標を向いていればいいということなんですね。
コートの上では先輩後輩は関係ないと言いますが、やはり日本人はどこか遠慮してしまうところがあります。日本代表は海外でのプレーする選手が増えてきたので、自分の思っていることを言い合う風土ができつつある。ここ数年で代表が急成長したのはそういう要因もあると思っています。
だからトヨタ車体でもそういう環境を根付かせたい。僕は今33歳でチームでは上から3番目なのですが、若い選手には殻を打ち破って、いつでも我慢せずに言ってきてほしい。その方が僕自身も成長できますから。

 

豊田合成戦の負けを活用して、二冠を達成する

 

―今シーズンは三冠を目指していましたが、昨日の日本選手権では惜しくも準優勝でした

渡部選手:今の気持ちは、悔しいという言葉しか出てきません。リーグ戦も日本選手権決勝も豊田合成相手に1点差で負けてしまった。基礎基本の大切さを痛感させられました。ミスが多いと相手にもチャンスを与えることになってします。
個人目標では、シュートミスゼロ、テクニカルミスゼロ、ディフェンスももちろんしっかり当たるということを取り組んでいますが、満足いくものではなかった。まだまだ改善の余地があり、伸びしろがあると思っています。

 

―とはいっても、社会人選手権でも優勝、リーグ戦では13勝1敗で首位と好調です。その要因をどのように捉えていますか。

 

渡部選手:確かに結果を残せていますけど、日本選手権は優勝を逃しましたし、僕としては手応えを感じていません。この感覚を言葉で説明するのは難しいのですが……。例えば、リーグ戦では次の試合に向けて一週間準備して臨みますが、万全だと思えることが少ないんです。「これでいいのかな」と確信を持てないまま試合に入って、結果的には勝利できている。
なぜなんだろう、とずっと考えていたのですが、紅白戦のときのBチームのレベルが高いことが一因ではないかと分析しています。紅白戦ではBチームが次の対戦相手がやってくるであろう攻撃や守備を再現します。先日もすごく走ってくるチームで、練習では全く守れなくて、大丈夫かなと思っていたのですが、試合が始まったら、「あれ、Bチームより遅いぞ」と拍子抜けしたというか。手応えは感じていなかったものの、実際には対策ができていたんですね。レベルの高い選手同士で練習ができていることで、このような現象が起きているのだと思います。
もちろんBチームで満足する選手はいません。競争が激しく、切磋琢磨し合えているのが良い結果につながっていると感じています。

 

豊田合成戦の負けを、各選手がどう捉えるかがすごく大事です。負けを活用するというか、この負けがあったからよかったと言えるシーズンにしたい。
もちろん本音は、負けなしで終わりたかったです。でも良くなかった部分が明確で、対策・改善できる負けだったので、これをチャンスに変えていくしかない。

 

―良くなかった部分、対策・改善すべき点とは?

 

渡部選手:常々ラース・ウェルダーヘッドコーチから言われているのですが、12月2日の豊田合成戦は前半後半のスタートの10分が良くなかったことと、シュートミスではないミス、例えばキャッチミスやパスミスが相手の2倍多かった。それでは勝てない。パスは基本中の基本。もう一度一人ひとりが基本を徹底し直さなければいけないと思います。

 

―最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

 

渡部選手:ちょうどシーズンも折り返しですが、後半のチームの最大の目標は日本リーグ優勝を達成すること。そのためには応援してくださる方の力が不可欠です。可能な限り会場に来て、僕たちの背中を押していただけるとうれしいです。
個人的には、日本代表はパリ五輪の出場を勝ち取りましたが、まだメンバーに選ばれたわけではない。メンバー争いを勝ち抜けるよう、一日一日、一試合一試合成長していきたいです。

 

インタビュー中、最近「渡部塾」に入塾したというセンターバックの北詰選手が通りかかったので、渡部選手について話を聞いてみました。

 

―渡部選手はチームにとってどのような存在ですか。

 

北詰選手:ここぞという時にしっかり仕事をしてくれる左のエース。頼もしい先輩であり、目標とすべき存在です。アジアでもトップレベルのフィジカルを持っていて、その武器を生かしたプレーが非常に勉強になります。

ハンドボールの練習が夕方5時くらいに終わるのですが、それから8、9時くらいまで居残ってフィジカルトレーニングをしていて、チームのフィジカルレベルが仁さんのおかげで底上げされています。

最近僕も同じグループでトレーニングをしているのですが、ついていくだけで精一杯です。でもトレーニングを始めてから当たり負けしなくなったし、体の軸がしっかりしたので以前よりシュートの精度が上がった実感があります。

ハンドボール以外の部分で言うと、少しやんちゃですね。しょっちゅう誰かにちょっかいを出しています。人と接するのが好きで、よく人を観察している。チーム全体を俯瞰して見ていて、練習前にちょっとふざけたりしてチームを明るくするようなムードメーカーの一面もあります。僕もいじられることが日常茶飯事です。

 

―CBの北詰選手から見たRBの渡部選手はどんなプレーヤーですか。

 

北詰選手:自分の強みを理解していて、チームの方針に則ったプレーを基盤にしながらも、そこにプラスアルファでオリジナリティを出している。得点が取れないときなどに、プレーに少しアレンジを加えて、「えっ、そこから打っちゃうの?」みたいなシュートを決めてくれるので、僕としては「ありがとうございます」みたいな感じですね。

(大崎電気戦での)スカイプレーも元々そういうプレーを用意していたわけではなく、試合中に僕が「次、ちょっとやってみましょう」と耳打ちしてやりました。仁さんはそういうときにも臨機応変に対応できるのがすごい。他の選手だとおそらくできないです。経験もありますけど、型に囚われすぎない柔軟性やユーモアみたいなものがあるからできるのだと思います。最初にも言ったんですけど、ほんと頼りにしています。

 

 

発行/2023年12月
取材・文/山田智子

2023/12/18