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ブレイヴキングス刈谷に関わる「ヒト」に焦点を当て、表面の部分だけでは決して見えてこない、その想いや考え、行動の原点にフォーカスしインタビューやコラムで紹介していきます。
キレのあるカットイン、身体を張ったディフェンス。コート上で戦う高智海吏選手を見ていると、彼が40歳であることを忘れてしまう。ベテランの域に達してもなお、トップレベルのパフォーマンスを維持し、チームに貢献し続ける。その原動力とはーー。
苦しい時期を支えた、「ハンドボールは遊び」という原体験
―SNSでファンの方が「50歳までプレーしてほしい」と書いていましたが、高智選手なら可能なのではと思うような、年齢を感じさせないプレーに驚かされます。
高智:よく言われます(笑)。
―長くトップレベルのパフォーマンスを保ち続けられる理由は何でしょうか。
高智:ハンドボールを遊びで始めたというところが大きいかもしれませんね。
日本代表としてもプレーさせてもらいましたが、重圧を感じることもありましたし、スケジュールも過密になるので体力的にしんどい時もありました。そういう苦しい時には、始めたばかりの、上手くなりたくて努力していた頃の自分を思い出すんです。
「好きなことを続けて、それを仕事にさせてもらえて、しかも世界のトップレベルの選手たちと戦える。こんな幸せことはない」と思えば、自然と高いテンションを維持できる。そうやって何度も乗り越えてきました。
―ハンドボールは高校2年生から始められたんですよね。トップ選手の中では比較的遅いスタートですが、それまでは何かスポーツをされていたのですか。
高智:小学校3年生からずっとバスケットボールをしていました。でも高校2年生の時にバスケ部を続けるかどうか悩む時期があって。その時に同じ体育館で練習をしていたハンドボール部の田中宏明先生から「一度遊びでハンドボールをやってみないか」と声をかけられたんです。試しにハンドボールをやってみたら面白いし、子どもの頃はドッジボールが得意で肩が強かった。左利きで、身長も高かったので、「結構できるな」という実感があって、ハンドボール部に転部しました。
―ハンドボールのどんなところに面白さを感じたのでしょう?
高智:ハンドボールとバスケットボールは似た動きが多いのですが、バスケでは3歩以上歩くとトラベリングになるので、3歩まで歩けるハンドの方が1歩多く歩けます。
バスケでも1対1で抜くプレーが好きだったし、さらに1歩多く歩けるとプレーの自由度が上がります。逆に2歩目でシュートを打つとタイミングが狂うので、相手としてはやりにくかったみたいですね。チームもインターハイに出場するような県内では強豪だったので、全国レベルで戦えることも楽しかったです。
―高校卒業後は、強豪・大阪体育大学に進学します。
高智:ハンドボールは楽しかったんですけど、始めたのが遅く、高校の頃は運動能力だけでやっているところがあったので、上のカテゴリーで続けられるとは考えてもいませんでした。僕は子どもが好きなので、保育士になるために保育科のある短大への進学を検討していました。
でも、3年生の時に中国地方のナショナル・トレーニング・システム (NTS)※ に参加した時に、フィジカルテストでトップを取って。「誰だ、この選手は? ハンドを始めて1年も経っていないらしいぞ」と注目されて、全国のNTSにも呼んでいただきました。そこでもフィジカルテストで1位か2位に食い込んだんです。
それで後日、田中先生に教官室に呼ばれて、「大学でもハンド続けてみないか? 教える仕事に興味があるのであれば、体育大学で教員の免許を取ることもできるから」と勧められて、大学進学を決めました。
※ナショナル・トレーニング・システム (NTS) :優秀なアスリートの発掘・育成・強化活動を実施すると共 に、指導の一貫性を図ることによる指導者の育成、さらには各地区の地域に新 しいハンドボール情報を伝達していくシステム
―大学の練習はいかがでしたか?
高智:厳しかったです! 伝統のある大学だったので、周りは小学校からハンドボールをやっているような有名選手ばかり。その中で、ハンドボールが身体に染みついていない僕は、全く通用しませんでした。それが悔しくて、悔しくて……。
―その壁をどのように乗り越えたのですか?
高智:他の選手の動きを見て、真似をする。それをとにかく反復しました。チーム練習の後、一人で体育館に残ってスキルを向上させるためにひたすら練習をしましたね。高校時代に自信を持っていた身体能力に関しても、上には上がたくさんいることもわかったので、筋トレや走り込みもしました。1年生の終わり頃から少しずつ試合に出られるようになって、3年生からは先発で出場するようになりました。
―実業団でもハンドボールを続けようと考えたのはいつ頃ですか。
高智:当初は教員を目指そうと考えていたので、教育実習にもいきましたし、「大学でやり切るぞ!」という気持ちでした。でも複数のチームからお声がけをいただいて、当時の監督の宍倉保雄先生とも相談してトヨタ車体ブレイヴキングスに入団することに決めました。「もっと上を、もっと先を目指して頑張れるんだ」と視野がパッと広がって、すごくモチベーションが上がった時期でしたね。
―ブレイヴキングスに加入して2年目で日本代表に選出されます。
高智:始めた時には全く想像していなかった世界ですね。初めての代表戦は、北京オリンピックの世界最終予選で。世界トップレベルの選手はプレーの一つひとつのクオリティ、パワー、高さ、全ての基準がずば抜けて高いなと感じました。でも、その中でも自分のフェイントや、得意としているカットインが通用すると感じることができましたし、そこに磨きをかけて可能性を伸ばしていきたいと意欲が湧きました。
―それから10年間にわたって日本代表として活躍されました。
高智:いろいろなヘッドコーチ(HC)のもとで貴重な経験をさせていただきました。2018年のジャカルタアジア大会で代表活動に一区切りをつけさせてもらいましたが、それまではタイトなスケジュールの中で、ハードに自分を追い込んできたので、ようやく肩の荷が下りたという感覚でしたね。
一方で、日本代表はモチベーションの一つになっていましたし、年齢的にも30代になっていたので、その後のキャリアをどうしていくのか考えるようになりました。今振り返ると、その頃は自分のパフォーマンスが少し落ちていたように感じます。
「若い選手には絶対に負けたくない!」 40歳でキャリアハイ更新中!!
―今シーズンは非常に高いパフォーマンスを維持しているように感じます。少し落ち込んだ時期から、どのように自分の気持ちを立て直したのでしょうか。
高智:昨シーズン、ラース・ウェルダーHCが就任して、起用法が変わったことが大きかったですね。僕は主にバックプレーヤーとしてプレーしてきたのですが、30代後半になってから数年かけてサイドプレーヤーに転向してきました。でも、ラースHCから「バックプレーヤーをやってほしい」と求められて、再び心に火がつきました。
バックプレーヤーはフィジカルコンタクトが激しいポジションなので、また身体を作り直しました。そうしたら、試合の出場時間も増えましたし、パフォーマンスも上がってきています。
―フィジカルテストの数字は、40歳のいまもチームトップレベルだそうですね。
高智:そうなんですよ。でも、努力をし続ければ、多分誰でもできるんですよ
―いやいやいやいや。誰にでもできることではないと思います。
高智:自分もそうだったんですけど、おそらく年齢を言い訳にして自分自身にブレーキをかけているところがあると思うんですね。1つずつ、1日ずつ、限界を超えていく努力を積み重ねることで維持できます。実際にここ数年間、毎日限界を超える努力を続けてきたことで、キャリアハイの数値を出すことができています。
―キャリアハイですか!?
高智:バイクを漕いで、6秒間でどれくらいのパワーを出せるかという瞬発的な動作を鍛えるトレーニングがあるんですけど、その数値で先週キャリアハイを出しました。僕はスクワットがあまり得意ではなかったんですけど、フォームを改善したりして努力を重ねることによって、いま一番重量が伸びていますね。
有望な後輩がどんどん入ってきた中でも、まだまだ負けたくないという気持ちが強いんです。僕が若手の立場だったら、「ベテラン選手を打ち負かして、早くポジションを奪ってやる」と考えるだろうし、それくらいの気持ちがなければ勝ち残ってはいけません。
練習していると、若手が挑んできているなと感じることがあって、それは嬉しいことでもある反面、僕としては絶対に負けたくない。フィジカルテストでトップクラスにいれば、客観的な数字としても負けていないことを示せますよね。若手の前に壁としてしっかりと立ちはだかって、切磋琢磨しながら互いにレベルアップできればと考えています。
―今のお話を聞いていると、ファンの方がおっしゃるように「50歳まで現役」もあながち不可能ではない気がしてきますね。
高智:さすがに50歳までは想像できませんが(笑)、チームの力になれる限りにおいては、できるだけ長くトップレベルでやりたいという気持ちはあります。この先の人生を胸を張って生きられるように、限界までハンドボールを続けたいです。
―日々の努力のほかに、長く競技を続ける秘訣はありますか?
高智:オフコートで、しっかりとリラックスすることでしょうか。僕はキャンプが趣味なのですが、むしろ身体がきつい時ほど行きますね。時間がなくても、朝3時に行ったりとか(笑)。「病は気から」という言葉があるように、キャンプに行って、気持ちをリフレッシュできると、次の週は不思議と身体が動くんですよ。DIYも好きなので、主に材料に木材を使うんですけど、木と向き合っていると心が落ち着くし、集中力が高まる。ある種の瞑想のような感じです。だから僕にとって趣味はハンドボールを続ける上で不可欠なものですね。
―2月からリーグHの後半戦がスタートします。初代王者になるために、どんなことが大事になっていくでしょうか。
高智:それぞれの選手が自分の武器をしっかりと認識して、それを試合でフルに発揮できるようにオーガナイズすることが大事になってくると思います。すごく難しいことですけど、それを全員ができれば、チームとして100%以上の実力が出せます。1月の日本選手権は決勝で敗れはしましたが、攻守においてそれを表現できた時間が多かったと感じています。
ファンの皆様の熱い応援もすごく力になっています。リーグHの優勝に向けて、これからも一緒に戦っていきたいです。僕も前半戦のパフォーマンスを継続できるように最大限の努力をしていきます。
取材・文/山田智子
2025/01/22